遠い木が見えてくる夕十二月 能村登四郎
散るべき葉がことごとく散ってしまうと、今までは見えなかった遠くの木も見えてきて、風景が一変する。この季節の夕刻は大気も澄んでくるので、なおさらである。そろそろ歳末のあわただしい気分になろうかというころ、作者は束の間の静かな夕景に心を休めている。さりげない表現だが、【十二月】 じゅうにがつ(ジフニグワツ)
概ね仲冬に相当するが、1年の締めくくりの月でもあり、初旬・中旬・下旬と次第に年の瀬の雰囲気も色濃く加わる。寒さも日増しに深まる印象がある。
例句 作者
人も車も片割れ月も十二月 清水基吉
十二月八日微塵の蝶の翅 安藤幸子
さまざまの赤き実のある十二月 森 澄雄
うしろから大きい何か十二月 山崎 聰
十二月八日日記に晴とのみ さくたやすい
なき母を知る人来り十二月 長谷川かな女
十二月八日沖見てゐる一人 宮城白路
浚渫船杭つかみ出す十二月 秋元不死男
山国へ退りし山や十二月 伊藤通明
炉ほとりの甕に澄む日や十二月 飯田蛇笏
十二月を静的にとらえた名句のひとつだろう。『有為の山』所収。(清水哲男)