竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
自得の100句が生涯目標です

湯豆腐や隠れ遊びもひと仕事  小沢昭一

2019-12-29 | 今日の季語


湯豆腐や隠れ遊びもひと仕事  小沢昭一

洒脱な粋人、小沢正一氏ならではの一句といえよう
彼ならばきっとありそうなと思わせて小気味よい
俳句は虚実ないまぜの許される文芸だと聞いている

隠れ遊び
さて何だ、読み手は己の体験と想像力を思う存分働かせる
そこに湯豆腐、戸外の遊びではなさそうだ
(小林たけし)

よく知られている「東京やなぎ句会」がスタートしたのは1969年1月。柳家さん八(現・入船亭扇橋)を宗匠として、現在なおつづいている。小沢さんもその一人で、俳号は変哲。「隠れ遊び」には「かくれんぼ」の意味があるが、ここはかつて「おスケベ」の世界を隈なく陰学探険された作者に敬意を表して、「人に隠れてする遊び」と解釈すべきだろう。(「人に隠れてする遊び」ってナアニ?――坊や、巷で独学していらっしゃい!)「遊び」ではあるけれども、いい加減な仕事というわけではない。表通りの日向をよけた、汗っぽく、甘く、脂っこく、どぎつい、人目を憚るひそやかな遊び、それを真剣にし終えた後、湯気あげる湯豆腐を前にして一息いれている、の図だろうか。それはまさに「ひと仕事」であった。酒を一本つけて湯豆腐といきたいが、下戸の変哲さんだから、あったかいおまんまを召しあがるのもよろしい。万太郎のように「…いのちのはてのうすあかり」などと絶唱しないところに、この人らしさがにじんでいる。小沢さんは「クボマンは俳句がいちばん」とおっしゃっている。第一回東京やなぎ句会で〈天〉を獲得した変哲さんの句「スナックに煮凝のあるママの過去」、うまいなあ。陰学探険家(?)らしい名句である。「煮凝」がお見事。これぞオトナの句。2001年6月、私たちの「余白句会」にゲストとして変哲さんに参加していただいたことがあった。その時の一句「祭屋台出っ歯反っ歯の漫才師」が〈人〉を三人、〈客〉を一人からさらい、綜合で第三位〈人〉を獲得した。私は〈客〉を投じていた。句会について、変哲さんはこう述べている。「作った句のなかから提出句を自選するのには、いつも迷います。しかも、自信作が全く抜かれず、切羽つまってシブシブ投句したのが好評だったりする」(『句あれば楽あり』)。まったく、同感。掲句は『友あり駄句あり三十年』(1999・日本経済新聞社)の「自選三十句」より。(八木忠栄)

【湯豆腐】 ゆどうふ
土鍋などに大き目の昆布を敷き、豆腐を入れ、温まったところを薬味と共に醤油やポン酢で食べる。「冷奴」(季:夏)と並んで最も一般的で人気のあるな豆腐料理。関西では「湯奴」という。
例句 作者
湯豆腐や男の嘆ききくことも 鈴木真砂女
湯豆腐に海鳴り遠くなりにけり 鈴木一枝
湯豆腐の一つ崩れずをはりまで 水原秋櫻子
湯豆腐や若狭へ抜ける京の雨 角川春樹
湯豆腐や雪になりつつ宵の雨 松根東洋城
湯豆腐の夭々たるを舌が待つ 能村登四郎
湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 久保田万太郎
永らへて湯豆腐とはよく付合へり 清水基吉
こころいまここに湯豆腐古俳諧 石田小坡
湯豆腐にうつくしき火の廻りけり 萩原麦草