地吹雪や嘘をつかない人が来る 大口元通
雪とはあまり縁のない土地で育ったせいで、吹雪の中を歩いた経験はない。「素人が吹雪の芯へ出てゆくと」と櫂未知子の句にあるように、方向さへ見失う吹雪は恐ろしいものだろう。では吹雪と地吹雪はどこが違うのだろう?手元の歳時記を引くと「地吹雪は地上に積もった雪が風で吹き上げられること。地を這うような地吹雪と天を覆うまで高く吹き上げられる地吹雪がある」と説明されている。天から降ってくる雪ではなくて、風が主体になるのだろうか。逆巻きながら雪を吹き上げる風の中、身をかがめ一歩一歩足元を確かめながら歩いてくる人、「嘘をつかない人」だから身体に重しが入って飛ばされないというのか、。誇張された表現が地吹雪を来る人の歩み方まで想像させる。ならば嘘つきは軽々と地吹雪に飛ばされてしまうのか、子供のとき読んだ「ほら吹き男爵」の話を思い出してしまった『豊葦原』(2012)所収。(三宅やよい)
【吹雪】 ふぶき
◇「地吹雪」 ◇「雪煙」 ◇「雪浪」(ゆきなみ)
強風に煽られて降る雪をいう。視界は暗く、遭難の危険が増す。いったん降り積もった雪が風に吹き上げられるのも吹雪だが、特に「地吹雪」と言う。風流な眺めとは正反対に位置する。
例句 作者
能登人にびやうびやうとして吹雪過ぐ 前田普羅
窓丸く拭きて吹雪を見てゐたり 等々力悦子
咳く我を包みし吹雪海へ行く 野見山朱鳥
瓦斯燈に吹雪かがやく街を見たり 北原白秋
棺桶に合羽掛けたる吹雪かな 村上鬼城
今日も暮るる吹雪の庭の大日輪 臼田亜浪
吹雪と来て子に金剛の瞳が二つ 橘川まもる
乳しぼり捨てゝ吹雪となりゐたり 石橋秀野
地吹雪と別に星空ありにけり 稲畑汀子
燃ゆる日や青天翔ける雪煙 相馬遷子
地吹雪の顔なぐりゆく九条の会へ 寿々木昌次郎
安楽死出来ぬ桜が地吹雪す 金子徹