竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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野良猫に軒借られゐて漱石忌 尾池和子

2019-12-11 | 今日の季語


野良猫に軒借られゐて漱石忌 尾池和子


実際には猫より犬派だったようだが、漱石といえば猫、そして夏目家の墓がある雑司が谷界隈には野良猫が実に多い。野良猫の寿命は4~5年といわれ、冬を越せるかどうかが命の分かれ目ともいわれる。先日、冷たい雨を軒先でしのいでいる猫のシルエットに気づいた。耳先がV字型にカットされている避妊去勢済みの猫である。縁側で昼寝をするほどの顔なじみではあるが、一定距離を保つことは決めているらしく、近づくと跳んで逃げる。ああ、またあの猫だな、と思いつつ、野良猫に名前を付けることはなんとなくはばかれ、白茶と色合いで呼んだりしている。そういえば『吾輩は猫である』の一章の最後に吾輩は「名前はまだつけてくれないが、欲をいっても際限がないから生涯無名の猫で終るつもりだ」とつぶやいていた。軒先で雨宿りする猫はどう思っているのだろう。漱石忌の今日もやってきたら、きっと名前を付けてあげようかと思う。「大きなお世話」と言われるだろうか。〈ふくろふに昼の挨拶してしまふ〉〈双六に地獄ありけり落ちにけり〉『ふくろふに』(2014)所収。(土肥あき子)


【漱石忌】 そうせきき
12月9日。文豪夏目漱石の忌日。1916年没。享年49歳。「吾輩は猫である」「坊ちゃん」「三四郎」「それから」「門」等がある。俳人正岡子規と親交があり、句作者としても屈指であった。

例句 作者

僧堂の門閉ざしあり漱石忌 藤崎 実
揚げたてのコロッケを喰ふ漱石忌 平野無石
銀の匙に麦粉そなへん漱石忌 中 勘助
漱石忌猫に食はしてのち夕餉 平井照敏
倫敦に蓑虫住むや漱石忌 橋本風車
漱石忌枯野おほかた日が当り 森 澄雄
妻の嘘夫の嘘や漱石忌 阿波野青畝
うす紅の和菓子の紙や漱石忌 有馬朗人
漱石忌余生ひそかにおくりけり 久保田万太郎