何処へ(2021.11.17日作)
昨日は あの人が逝った
今日は この人が逝った
若かりし頃 未だ 青春 壮年 の日々
眼に耳に親しかった
あの人 この人が 次々と 永遠の地
永遠の彼方へと去ってゆく
今年 今現在 八十三歳七ヶ月
わたしの人生 まだ若かりし頃
わたしを取り囲み わたしの日々を彩った
あの巨大 華やかだった空間が 次々と
蝕まれ 失われてゆく
後に残るものは 名も知らぬ花のように
わたしの人生の 失われてゆく空間を埋め尽くす
若き人々の名前と顔 その存在が
わたしの空間 今現在 わたしが生きている
時間 その中へ 侵入して来る
わたしは見つめる ただ じっと 失われ
狭められてゆく空間の中で この
細りゆく空間 時間の中で
わたしは いったい
何処へ・・・・・?
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岬
または
不条理 (1)
この世界は 不条理に満ちたものだ
「なぜ ? 今でもまだ信じられない」
と いう事がしばしば 起り得る
一
穏やかな秋晴れの、休日の一日だった。
大きな流れの川に沿った広々とした河原には、休日を楽しむ数多くの家族や、野球、サッカーなどを楽しむ人々の姿があった。時刻は午後三時を少し過ぎていた。三津田明夫は腕時計に眼をやると、少し西に傾き始めた陽の光りを気にして、そろそろ帰ろうか、と思った。
「おい、勝、もう帰ろう。三時を過ぎたぞ」
と、草地に腰を降ろしてハゼ釣りの糸を垂らしていた小学四年生の息子に声をかけた。
勝のそばには妹の小学二年生の真紀が、今日の釣果のハゼの入った小さなポリバケツに手を入れて頻りに掻き廻していた。
「うん、あと一匹釣ったら」
勝は釣竿の先を見詰めたまま答えた。
勝が最後の一匹を釣り上げて、二十数匹のハゼの入ったポリバケツにそれを放すと親子はようやく、竿を巻きにかかった。
「今日はずいぶん釣れたね」
真紀がバケツの中を覗き込みながら嬉しそうに言った。
「うん、ずいぶん釣れたね。早く帰ってお母さんに天ぷらにして貰おう」
三津田は応じた。
三人は川の傍を離れると野球をしている少年達の近くを通って緩やかな斜面の堤防を登っていった。
堤防を登りきってゆったりと開けたサイクリングロードに出た時、その車道で膝を折り、煙草を吹かしながら河原を見詰めていた男が不意に立ち上がると三津田親子に近付いて来た。
五十代半ばと思われる男は三津田の前へ来ると軽く頭を下げながら、
「三津田明夫さんでしょうか ?」
と言った。
「はい、そうです」
三津田はなんの疑問も抱かずに答えた。
「実は、ちょっとお話ししたい事がありまして」
男は静かな口調で言った。
「なんでしょう ?」
三津田は軽い懸念と共に答えた。
「お頼みしたい事がありまして」
「わたしに ?」
三津田は不意を突かれる思いで答えた。
「はい」
男はやはり静かな口調で言った。
「なんですか ?」
三津田は初めて軽い疑念に捉われて言った。
「詳しい事はまた後でゆっくり、お話ししたいと思うんですが、ただ、承知して戴けるかどうか、お返事を戴きたいと思いまして」
三津田は困惑した。
「お話ししたいって、いきなり、そんな事を言われても困りますよ。なんの話しか訳も分からずに」
三津田は些か機嫌を損ねてぶっきら棒に答えた。
「それは承知しています。失礼だとは重々承知の上で、あえてお頼みしたいと思いまして」
男は依然として静かな口調で丁寧に言った。
「お断りします。訳も分からないそんな話し、お断りします」
三津田はきっばりと言うと、真紀の手を取って歩き始めた。
「よく考えて戴けませんか。また後日、改めてゆっくりとお話しさせて戴きたいと思いますので」
男は三津田達の後に付いて来ながら言った。
「いえ、お断りします」
三津田は後ろを見もせずに答えた。
「そうですか。ちょっと残念ですが、でも、今日はこれで失礼します」
男はそう言うと三津田の後に従うのをやめて足を止めた。
三津田には気配でそれが分かった。
少し歩いて三津田が後ろを振り返った時、男は堤防の上に出ていて、三津田に背を向けて遠ざかって行った。
「何処のおじさん ?」
手を繋いで歩いている真紀が無邪気に三津田を見上げて聞いた。
「何処のおじさんか、パパも知らない人だよ」
三津田は不機嫌な気分の払拭出来ないままに、それでも真紀には優しく答えた。
「変な人だね」
勝が釣竿を肩に、手にはハゼの入ったポリバケツを提げて三津田の脇を歩きながら言った。
「うん、全く変な人だよ」
三津田は吐き出すような口調で言った。
「何をしいる人なんだろうね」
勝は言った。
「何をしている人かなあ」
三津田自身、理解出来ないままに重い口調で答えた。
その夜、三津田は子供達が布団に入った後で、妻の時子に昼間の出来事を話した。
「まったく知らない男なんだ。顔も見た事がない」
「その人が、頼みたい事があるって言ったの ?」
時子も不安げな様子で問い返した。
「うん」
「何かしら ?」
時子は言った。
「なんだか分からない」
三津田には、そう答える事しか出来なかった。
「何処かで会っている人じゃないの ?」
時子は言った。
「いや、会った事はない。全く覚えがないよ」
それは確信出来た。
「それで、後日、また会いたいって言ったの ?」
「それで、後日、また会いたいって言ったの ?」
「うん」
「嫌だわ。何もなければいいけど」
時子は心底恐れるように顔を強張らせた。
三津田が心配した男からはそれ以後、なんの連絡もなかった。最初の二、三日は出勤途中の電車の中でも、街中を歩いている時でも、絶えず、男が何処からか自分の様子を窺っていのではないかと気になって仕方がなかった。しかし、それが一週間も過ぎる頃になると、何事もないその状態に馴れて来て、男は、ああ言ったが、きっぱりと断られた事で諦めたに違いないと思うようになっていた。妻の時子も、「あれからなんの連絡もない ?」と聞いて来たりしたが、三津田は晴れやかな気分でいる事が出来た。
現在、三津田は四十二歳で働き盛りだった。都内にある清涼飲料水メーカーに勤務していて、課長という立場にあった。一家は三歳違いの妻と二人の子供の四人暮らしだった。大きな川を隔てて東京に隣接する市に住んでいて、生活は順調そのものだった。これといって何一つ、心配の種になるようなものはなく、唯一、住宅ローンだけが重荷だったが、それも苦にする程のものではなかった。直属の上司は将来の社長候補といわれる人で、三津田はその人の信頼も得ていた。言ってみれば三津田の人生は輝ける未来に満ちている、とも言えた。
三津田は社用でも個人的にもよくそのバー、「茜」を利用した。東京駅に近い彼の会社からさして離れていない距離にあって、五十歳前後と思われる品の良い、少し太り気味のママと三人のホステス、それに六十歳代のバーテンダー、アルバイトのバーテン見習いとも言える大学生のいる店だった。カウンター席と四つの椅子席があって、こじんまりとして落ち着いた雰囲気が特長だった。
その夜、三津田が商談を済ませた取引先を送って「茜」入ったのは、午後八時を少し過ぎていた。店内には二つの椅子席とカウンターに着いている七、八人の先客があった。三津田は緩やかに馬蹄形を描いているカウンターの先客とは少し離れた入り口に近い場所に席を取った。
ママが三津田の前に来た。
「何時ものにします ?」
ママが聞いた。
「うん」
と三津田は答えた。
三津田に取っては、習慣とも言えるママとの応答だった。
「今日は、お連れは ?」
ママは言った。
「いや、今、取引先を送って来たんで、ちょっと、寄ってみた」
三津田は言った。
「相変わらず、お忙しそうね」
ママは言った。社交辞令ではなかった。
「うん、ちょっとね」
三津田も満足感と共に答えた。
一組の三人連れの客が入って来て、椅子席に向かった。
ママは「ちょっと失礼」と言うと、三津田の前を離れて、椅子席に着いた客達の方へ向かった。
カウンターの中にはバーテンダーの吉野さんとアルバイトの宗ちゃんがいた。
三津田が一人でグラスを口にしていると、一人の男が影のように三津田に近寄って来ていた。男はウイスキーのグラスを片手に、三津田に身体を摺り寄せるようにしてスツールに腰を下ろした。
「先だっては、失礼しました」
三津田が身構える間も置かずに男は、耳元で囁くようにして言った。
三津田はギョッとして男を見た。
紛れもなく、あの男だった。
三津田が言葉を失っていると男は、
「ここには、よくお見えになるようですね」
と言った。
三津田は黙っていた。
「如何でしょう。あの件は考えて戴けたでしょうか」
と、男は言った。
「いい加減にして下さいよ」
三津田は激しい怒りに捉われたが、店内の雰囲気を慮って腹の底から搾り出すような声に批難を込めて強く言った。
「わたしの方でもそうしたいのですが、この事にはいろいろ、複雑な事情が絡み合っていまして、なかなかそれが出来ないんですよ」
と男は言った。
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takeziisan様
コメント 有難う御座います
一人の画家の絵に魅せられ 取り憑かれた
男の悲劇 芸術が人の心にもたらす影響に付いて
書いてみました 芸術に限らず 何か一つのものに
魅せられ それに打ち込む姿勢は なかなか 他人には
理解出来ないものがあります あいつは何々気狂いだ
と言われるのがそれで その人に取ってはそれが
人生の生き甲斐ともなって それが無くなれば 生きる
価値そのものが無くなってしまう そのために自分の命
までも賭ける羽目なる 画家で言えばゴッホなどがその
例ではないでしょうか その為に無意識のうちに
命までも削ってしまう ただし この文章の中で
それが描き切れているかどうかはまた 別問題ですが
シャコバサボテン 早いですね なんだかわが家では
花芽もないです
ラテン 当時 流行りましたね ブログ内で懐かしい
音楽の数々に出会え 当時の思い出と共に心和む一時
を過ごしています
その他 紅葉 様々な花の写真 眼の保養です
昨夜も NHKで京都の紅葉を写していましたが この
季節 色とりどりの見事な景色を見るのは 毎年の
楽しみになっています それにしても 豊かな色彩に
恵まれた国土だと思います 政治もせめて この国土に
匹敵するような彩豊かなものを見せてくれると
いいのですが まずは儚い夢にしか過ぎないようです
水泳 気力がある限り まだまだいけます
お互い 歳の事は嘆かず 頑張って否 頑張らずに
元気に行こうではありませんか
それから忘れました うどん わが家でも昔 つくり
団子のようになってしまって 大笑いしながら食べた
記憶があります
何時も お眼をお通し戴き 有難う御座います
桂蓮様
有難う御座います
コメント とても楽しく読ませて戴きました
落ち葉集め 去年も書いたように思いますが
改めて良い環境にあればあるなりに御苦労が
あるのですね それにしても この コメント
傑作です 状況がよく浮かびます 牛 馬 思わず
笑ってしまいました 御夫婦仲睦まじい御様子
ほのぼのとした気持ちになります 拝見していて
楽しくなりました 身体は鍛えれば鍛えるだけ
期待に応えてくれるものですね 読んでいるだけで
柔軟さを増したお体の様子が見えて来ます
再読ブログ 人を読む
人が見せない部分を読めるようになって やっと
その人のありのままが見えてくる
隠している部分を読み取り その隠している部分を
尊重する 大事な事ですね 正に正論 深い言葉です
それもこれも 人を尊重する その気持ちの無い人には
無理な事ですね 人の気持ちはどんな人の気持ちであれ
それが他者を傷付けるものでない限り
尊重したいものです
御作品の再読 英文との合わせ読みのせいか
その都度、面白く拝見ざさて戴いております
いつも詰まらない文章にお眼をお通し戴き
感謝申し上げます
有難う御座いました
聞いてから判断しますね。
でも、子供が一緒だと次回に回すかなー
いますよねー聞きもしないで
初めから警戒する人、主人公もそんなタイプかなー
といっても、飲み屋でばったりまた会ったとは、その人、ストッカー?
今日は土曜午前のバレエレッスンが終わって
落ち葉作業に入りました。
写真アップしているので、見られるかも?です。
でも文頭にアップした写真は
秋の初め頃、撮っておいたもんです。
あの葉っぱが全部落ちたとのことです。
まあ、まだ残っていますけど。
今日は9回運びましたよ。
でもまだ横の方は手もつけてないし、
先週やった前の方はもう積もっているから
来週中にまたやらないとです。
ひやー、夫は馬や牛とか言ってますが、
私は自分を人間トラックだと思います。
今日はホットドッグ2個だけのエンジンオイルにして、
昨日、雨が降ったから
落ち葉が全部なおさら重くて
運ぶのに余分の馬力が必要でしたね。
あの運ぶ写真をフェイスブックにアップしたら
バレエの先生から見るにつらいから程々にしとけーとコメントがありました。
で、先生、あれコア筋肉鍛えですよ、プリエ(膝を曲げる)練習してますし、と返信しておきました。
着ている服、あれスキー服です。
防水だから、水含む葉っぱでも
へっちゃらーですねー
ところで、文頭の詩は切実な切迫感がありますね。