田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「あんちゃん」「あのお方」「清ちゃん」「顔の濃い人」「斬られ役」…福本清三

2021-01-05 16:23:47 | 映画いろいろ

 老婦人からの、「名も知らぬ斬られ役を、『あんちゃん』と呼んで夫婦で応援している」という投書が、朝日新聞の「声」欄に載ったのは、2000年11月22日のことだった。

 すぐに福本清三さんのことだと分かったが、自分の家でも彼のことを「斬られ役」と呼んでいたので、「あー、同じような人がいるんだ」と思い、その何とも味のある文章とも相まって、ほのぼとした気持ちになったことを覚えてる。

 ところが、同28日には、彼を「あのお方」「清ちゃん」「顔の濃い人」などと呼ぶ人たちからの投書が、再び「声」に載り、翌日はついに「天声人語」で取り上げられた。

 「あの人は誰?」と話題に上り始めた無名の斬られ役が、知る人ぞ知る存在となり、著書が出版され、ハリウッド映画に出演し、主役を張るまでになる…という、その後の奇跡のような出来事は周知の通り。

 これは「一生懸命やっていれば、誰かが見ていてくれるという気持ちでやってきた」男への見事なご褒美。現実は、報われないことの方が圧倒的に多いが、たまにはこんな出来過ぎな話があってもいいじゃないかと思わされたものだ。

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2010「第4回田辺・弁慶映画祭」

2021-01-05 12:27:31 | 雄二旅日記

 11月5~7日、昨年に続いて、キネマ旬報の映画検定1級合格者の一人として、和歌山県の田辺映画祭で審査員を務めた。コンペの候補作は5本(今年は日本映画のみ)。これを1日で見るのだからさすがに骨が折れた。

『県民エイガ さつまおごじょ サザン・ガールズ・グラフィティ』監督:堀奈理子

 女性監督作で舞台は鹿児島。冷え込んだ商店街活性化に奮闘する人々の善意や思いというテーマには好感が持てるが、演出、映像処理、人物描写のすべてが稚拙。出演者もアマとセミプロがほとんどだということで違和感あり。これでは自主映画あるいは自治体広報映画止まりで一般公開はきついと思う。大林宣彦の尾道三部作的な地元密着型の映画を作るのはなかなか難しいようだ。

『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』監督:加藤行宏

 男の善意を利用して人生を泳いでいく女優志願ヒロインの姿が描かれる。粗削りだが、悪女もの、ブラックコメディとして面白く見た。個人的、生理的には受け入れられない部分も多いのだが、有無を言わせぬパワーがあり、全体のテンポもいい。と、映画好きは、映像製作の現場を描いたものには点数が甘くなるところがある。ヒロインを演じた山田真歩が好演。ラストは、ちょっと『イヴの総て』(50)を思い出した。ただし、長すぎるタイトルには再考の余地ありと感じた。

『マイム マイム』監督:岨手由貴子

 女性監督作。高校時代の教師と不倫し、目標のない人生を生きるヒロイン。幼なじみの男が彼女を立ち直らせようとするが…。ストーリーにも映像にも、神経を逆なでされるようなところがあるが、刺激的というわけでもない。具体的なシーンが少なく、全てがイメージで描かれたような映画。上辺だけの空虚な印象が残る。ただし赤が印象的な色遣いには見るべきところがあった。

『君の好きなうた』監督:柴山健次

 同棲相手に去られた草食系男子のような主人公が、大学時代の女友達と同居生活を始めるが…。『恋人たちの予感』(89)もそうだが、男女間に友情は成立するのか、というのは永遠のテーマ。全体的にはよくまとまっているのだが、カメラの長回しが多過ぎる。特に雨中のキスシーンにはまいった。不思議ちゃん的な関西弁のヒロインを演じた山口尚美もキュートとアホの間を行ったり来たりする。平田満が出てくるとさすがにしまる気がするが、それこそがプロとそうでないものとの差なのだろう。

『たまの映画』監督:今泉力哉

 女性プロデューサー作。この映画の魅力は、元たまのメンバーの人間性、音楽性、楽曲の力に負うところが大きいが、作り手の、対象に対する愛情、興味、好奇心も画面からあふれる。何と言っても、彼らに注目した目の付けどころの良さと、雑多なインタビューやライブをまとめ上げた編集の勝利なのだが、ラストはパスカルズのところで切るべきだったのではと思う。

 ただ、せっかくザ・バンドの『ラスト・ワルツ』(78)をほうふつとさせたのに、後に続く2曲の件が長くて興ざめさせられた。しかし、ビートルズの映画『レット・イット・ビー』(70)もそうだったが、よくこれだけ音楽的な個性が異なるメンバーが同じバンドで活動していたものだと変なところで感心させられた。

 全体的に、スタッフ、キャスト共に、女性中心の映画が多かった。そして、作り手の描き方にも、見る側の捉え方にも男女の違いをつくづく感じさせられた。私見では、『人の善意を骨の髄まで吸い尽くす女』と『たまの映画』が双璧だったが、劇映画ということで前者に一票を投じた。

 審査後の飲み会で、大森一樹監督らと、「今、地球上でこんな映画の話をしているのはここだけ」と笑いながら、スティーブ・マックィーンやアラン・ドロン、今は幻の女優たち、60年代から70年代のB級アクション映画の話題で盛り上がった。

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2009「第3回田辺・弁慶映画祭」

2021-01-05 12:20:14 | 雄二旅日記

 10月1日から4日まで、和歌山県の田辺市で開催された「第3回 田辺・弁慶映画祭」にキネマ旬報映検審査員として参加。東京から新大阪まで新幹線で2時間半、新大阪から紀伊田辺まで特急で2時間半、計5時間余りの長旅だったが、初めて訪れる土地への好奇心と映画漬けの3日間を過ごすことができてなかなか楽しかった。

 以下に、それぞれの作品のあらすじと寸評を。まずは、初日に見た3本から。

『彼方からの手紙』監督:瀬田なつき 主演:スズキジュンペイ

 不動産屋に勤める30歳目前の吉永。同棲している女性もいるが、なんとなく人生に疲れを感じている。そんな彼の前に謎の少女が現れ、かつて父と一緒に住んでいた部屋が見たいと言い出すが…。

 現在、過去、未来が交錯する映画だけに、時の流れの描写などに粗削りで独り善がりなところも見られたが、興行を意識していない、大学の卒業製作だと思えばまずまずの出来か。スズキジュンペイが、何となく人生に疲れた主人公を好演していた。ファンタジーは観客を納得させるのが難しいが、瀬田監督は、もう少し整理ができれば素質はあると感じた。ぜひ、後々、商業映画として自身でリメークしてほしいと感じた。

 スズキジュンペイ、どこかで見たことがあると思って本人に確認したら、『9/10 ジュウブンノキュウ』(06)という映画に出ていた鈴木淳評と同一人物だった。

『未練坂のヤドカリ』監督:小林総美 主演:石野由香里

 夫に浮気され捨てられたヒロイン。彼女はトイレ掃除婦として働き、空家になった家を見ながら思い出に浸るのが日課だ。そんな彼女が、ある日、廃ビルで不思議な女子高生と、鎖につながれた外国人と出会う。

 パワーは感じるが、独り善がりが目立つ。人の不幸は、他人から見ればブラックユーモアということなのか。セリフを少なくし、映像で説明しようという気持ちは分かるが、作り手のイメージだけが先走った映像が多いと、逆に観客は戸惑う。良く言えば即興的だが、悪く言えば行き当たりばったりな映画という印象を持たされた。

『バンドゥピ』監督:シン・ドンイル 主演:マブブ・アロム、ペク・ジンヒ

 いつも不機嫌な女子高校生ミンは、バスの中で拾った財布を持ち逃げしようとしたことで、財布の持ち主でバングラデシュから出稼ぎに来たカリムと知り合う。やがて2人は互いに恋心を抱くようになるが、ミンはカリムを通して出稼ぎ労働者の過酷な現実を知ることになる。バングラデシュからの移民労働者と多感な女子高生との恋、友情がドキュメンタリー的な要素も含みながら描かれる。原題はベンガル語で“真の友達”という意味とのこと。

 劇映画になり切っていない前2作を見た後だけに、この映画はちゃんと映画になっていると感じさせられ、安心して見ることができた。主役の2人がとてもいい。特にこれがデビュー作だというペク・ジンヒが多感な乙女心を表現して秀逸。ワンパターンの悲恋ものだけでなく、韓国の現実を知らせてくれるようなこうした映画こそもっと見てみたい。ただ、卒業製作や自主製作のものと、こうした興行を意識した映画を同列に並べて比べるのは酷だと思った。

2日目はさらに2本。

『ベオグラード1999』監督:金子遊  ドキュメンタリー

 全共闘ジュニアの監督が、新右翼「一水会」の木村三浩に接近し、その活動のドキュメンタリーを撮り始める。監督は、新左翼的な信条とナショナリズムの間で揺れながら、徐々に街頭抗議を続ける木村の存在に引かれていく。

 戦争、内戦という重い題材と、自殺した彼女に対する個人的な思いを交差させたことで、テーマがぶれてしまった感がある。また木村三浩という人物の魅力に引っ張られ過ぎてしまったのも残念。ただし、ユーゴスラビアの様子や街頭演説、デモの映像は刺激的だった。

『ナーダムを探して』監督:宝力徳 主演:周倜 

 インターネット中毒の14歳の少年ザオは、ある日、治療のために無理矢理、内モンゴルの大草原に送られてしまう。パソコンどころか、電気すらないパオ(移動テント)で1週間を過ごすことになったザオは、パオの主人の娘キキゲをモンゴルの年に一度のお祭りであるナーダムに連れて行くという名目で脱走を試みるが…。タイトルのナーダムとはモンゴルの祭りのこと。

 監督デビュー作ということで、多少テンポの悪さがあるのは否めないが、全体的にハートウォーミングな味わいがあり、好印象を持った。広大な草原を舞台にした少年と少女のロードムービーとしても面白い。父子の和解劇としては類型的だが、素直な感じで描かれ、思わずホロリとさせられた。

審査

 コンペティション部門は、以上、アジアの若手監督(40歳以下)の5作品が参加し、韓国の『バンドゥビ』が特別審査員賞と映検審査員賞をダブル受賞。東京国際映画祭チェアマン特別奨励賞は、日本の瀬田なつき監督の『彼方からの手紙』、市民審査賞は宝力徳監督(中国)の『ナーダムを探して』となった。

 個人的には、完成度は『バンドゥビ』、好感度は『ナーダムを探して』、将来性では『彼方からの手紙』を推したので順当な審査結果となったが、実際に作り手たちの話を聞いてしまうと、単純に映画の完成度や好みだけでは計れなくなるところがあり、ちょっと困った。

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「午後のロードショー」『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』

2021-01-05 08:01:00 | ブラウン管の映画館

『ハムナプトラ3 呪われた皇帝の秘宝』(08)

『文化の泉 映画でたどる世界遺産』から。

ウエスタン・ユニオン・特急便 第26号 「今も世界の映画を結ぶフォード&デューク」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/1bbedaa35cbec1341f06e2e71ed4500c

 

『ハムナプトラ2 黄金のピラミッド』(01)(2005.4.12.)

 途中で「あれ、これ前に見た…」と気づいた。うちのかみさんの映画に対する記憶喪失は半端じゃないのだが、いよいよオレにもうつったか。

 さて、この映画のルーツは大昔のボリス・カーロフ主演の『ミイラ再生』(32)。カーロフこそがフランケンシュタインの怪物とミイラ男のイメージを決定付けたのだ。それにしてもスコーピオン・キング(半人半サソリの怪物)は傑作だった。最初はカニかエビかと思ったぞ。

 

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「BSシネマ」『人生の特等席』

2021-01-05 07:12:21 | ブラウン管の映画館

『人生の特等席』(12)

「TROUBLE WITH THE CURVE=カーブの問題=カーブが打てない選手」
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b5fba659307919a0a8cd7c34d1ed1437

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