現代流の西部劇の趣もある
2011年米ネバダ州エンパイア。ジブサム(石膏)採掘会社の破たんによって、仕事も住居も失ったファーン(フランシス・マクドーマンド)は、バンに乗り込み、季節労働の現場を渡り歩く。
米西部の路上で暮らす、現代のノマド(遊牧民)たる車上生活者を描くロードムービー。監督・脚本は中国系女性のクロエ・ジャオ、撮影ジョシュア・ジェームズ・リチャーズ、音楽ルドヴィゴ・エイナウディ、助演デビッド・ストラザーン。
本物のノマドたちが出演していることもあり、劇映画とドキュメンタリーの境界を描いた感じがする。マクドーマンドは、どこまでが演技なのかと思わせるほど、その世界に同化している。また、バンやキャンピングカーを馬車に見立てれば、風景も含めて、現代流の西部劇の趣もある。
車上生活とAmazonなどでの季節労働、漂泊と定住、自由と不自由、束縛、貧富、選択といった、さまざまな問題が提示されるが、こうした渋い映画が評価されることには、アンチトランプやコロナ禍といった、アメリカが抱える矛盾や悩みが少なからず影響を与えているのだろうと感じた。
【付記】アカデミー賞の前哨戦とも言われるゴールデングローブ賞のドラマ部門で、作品賞と監督賞を受賞したが、主演女優賞候補だったマクドーマンドは落選した。