田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『Mank マンク』

2021-03-20 23:09:29 | 新作映画を見てみた

 予想通り、今年のアカデミー賞では、Netflix製作の映画がに大量ノミネートされた。その中の一本『Mank マンク』を見てみた。

 オーソン・ウェルズ製作・監督・主演の名作『市民ケーン』(41)でアカデミー賞脚本賞を受賞した“マンク”ことハーマン・J・マンキーウィッツを主人公に描く物語。デビッド・フィンチャーが父ジャックの遺稿を映画化したのだという。

 アルコール依存症に苦しむ脚本家のマンク(ゲイリー・オールドマン)は、鳴り物入りでハリウッドにやって来た24歳のオーソン・ウェルズ(トム・バーク)から脚本の執筆を依頼される。

 マンクは、新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハースト(チャールズ・ダンス)をモデルにした物語を書きながら、自分の過去や、ハーストの愛人で女優のマリオン・デイビス(アマンダ・セイフライド)、MGMの社長ルイス・B・メイヤー(アーリス・ハワード)、同社プロデューサーのアービング・タルバーグ、脚本家仲間のベン・ヘクト、ジョン・ハウスマン、弟で脚本家のジョセフ・L・マンキーウィッツなど、さまざまな人々とのかかわりを思い出していた。

 フィンチャーが、モノクロ画面、モノラル音声に、脚本の体裁、パンフォーカス、フェードアウト、ディゾルブなどの技法を用いて、『市民ケーン』前後の時代の再現を試みているが、何だか“ものまね”を見ているような違和感を覚えた。また、現在と過去(回想)が行ったり来たりするので、見ていて落ち着かないところがあった。

 特に、1934年のカルフォルニア州知事選挙で、ハーストと映画業界が手を結び、社会主義運動家で作家のアプトン・シンクレアを落選させようと一大キャンペーンを張った様子を執拗に入れ込んだことで、かえって話が散漫になったことは否めないだろう。

 つまり、よほどの映画通か、あるいは『市民ケーン』そのものについてや、当時のアメリカ社会やハリウッドの事情を知っていないと、正直なところ見るのがつらい映画なのだ。その点、一般的な観客には甚だ不向きな映画だと思う。

 また、去年公開された『ジュディ 虹の彼方に』もそうだったが、今やメイヤーは完全な憎まれ役なのだな。その意味でも、この映画が賞レースをにぎわせているのは、昔のハリウッドを懐かしんでいるからではなく、むしろしっぺ返し的な意味が込められているのかもしれないと感じた。

『映像の魔術師 オーソン・ウェルズ』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7f925f8b2bddeb3e66e86399ca8d6f1a

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『ホムンクルス』

2021-03-20 12:06:04 | 新作映画を見てみた

トラウマからの解放を描いた心理劇

 記憶を失い、車上生活を送る名越進(綾野剛)の前に、ある日、医学生の伊藤学(成田凌)が現れ、頭がい骨に穴を開け、第六感を芽生えさせるトレパネーション手術をすることを持ちかける。

 術後、名越は、右目をつむって左目で見ると、人間が異様な形に見えるようになる。伊藤は「他人の深層心理が視覚化されて見えている」と説明し、その異形をホムンクルスと名付ける。名越はその能力を使って心に闇を抱える人たちのホムンクルスを消していくが…。 

 カルト的な人気を誇るという山本英夫の漫画を清水崇監督が映画化。ホムンクルスとは、ラテン語の小人の意味で、ヨーロッパの錬金術師が作り出す人造人間、あるいはそれを作り出す技術のことを指すらしい。

 この映画のホムンクルスは、グロテスクだったり滑稽に見えたりもするが、それを見せることが主体ではなく、超常現象を媒介としたトラウマからの解放を描いた心理劇的な要素が強かった。

 見る前は、清水監督故、もっとホラーっぽいものを想像していたのだが、そこは大きく違っていた。まあ、大山鳴動してネズミ一匹という感もなくはないのだが…。成田凌のエキセントリックな魅力が全開。むしろ彼が演じた伊藤の方が主人公に見えてくるほどだった。

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