『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021.11.3.東京国際映画祭 よみうりホール)
舞台は1920年代のモンタナ州。カリスマ性があり、威圧的な態度で恐れられている兄のフィル(ベネディクト・カンバーバッチ)と、対照的に地味な弟のジョージ(ジェシー・プレモンス)のバーバンク兄弟は、大牧場を経営して暮らしていた。
ところが、ジョージが未亡人のローズ(キルスティン・ダンスト)と結婚して、彼女を牧場に連れてくる。ローズを疑わしく思ったフィルは、ジョージやローズ、さらに大学の休みに牧場を訪れたローズの息子のピーター(コディ・スミット・マクフィー)にも執拗に嫌がらせをする。
やがてローズはアルコール依存症になるが、ある秘密を抱えるフィルは次第にピーターと親しくなっていく。
監督は『ピアノ・レッスン』(93)のジェーン・カンピオン。タイトルの「犬の力」は、旧約聖書の詩篇からの引用で、悪の根源、悪い絆といった意味があるらしい。人間の逃れられない悪縁を犬に例えるというのは『犬神家の一族』を想起させる。
この映画は、登場人物それぞれの心の葛藤を描く一種の心理劇だが、直接的ではなく、メタファーを通して、フェティシズム、同性愛といった隠された性癖が明らかになっていくという手法を取っている。
よく言えば、純文学的で、見る者の創造に任せるようなところもあるが、悪く言えば、わざと説明を省いて分かりづらくしているので、回りくどくてもったいぶったような印象を受けるのも否めないし、最後まで一向に気が晴れない。
Netflix製作映画で、ベネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作。ヨーロッパの映画人は本当にこういう映画が好きなんだなあと、改めて思った。舞台となったアメリカではこの映画に対する評判はどうなのだろうかという興味が湧いた。