『天才ヴァイオリニストと消えた旋律』(2021.11.14.オンライン試写)
第二次世界大戦前夜のロンドン。ギルバード・シモンズ(スタンリー・タウンゼント)は、ポーランド系ユダヤ人で類い希なバイオリンの才能を持つ9歳の少年ドヴィドルを引き取ってサポートすることにする。
ドヴィドルと同い年のギルバードの息子マーティン。2人は相反する性格や宗教観の違いに戸惑いながらも、やがて兄弟のように親しくなって成長する。ところが、21歳の時に開催されたデビューコンサートの日に、ドヴィドルが突然姿を消す。
それから35年がたったある日、音楽コンクールの審査員をしていたマーティン(ティム・ロス)は、ドヴィドルの行方を追う手掛かりを得て、彼を探す旅に出る。
戦中、1951年、86年という、三つの時代を交錯させ、ロンドン、ワルシャワ、ニューヨークと舞台を移しながら、ドヴィドルはなぜ失踪したのかを探る音楽ミステリー。
監督は、カナダ出身のフランソワ・ジラール。過去に、バイオリンの数奇な運命を描いた『レッド・バイオリン』(98)や、音楽と少年をテーマにした『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』(14)を撮っているので、この映画はそれらの延長線上にあるといってもいいだろう。
音楽はハワード・ショアが担当し、バッハ、ベートーベン、パガニーニ、ブルッフなどを引用。著名なバイオリニスト、レイ・チェンによる演奏が聴きものとなる。
まず、ドヴィドルを引き取りサポートするギルバードの存在が大きい。当時のイギリスに、本当にこういう人がいたのだろうか、という興味が湧いた。
そして、マーティン(少年ミシャ・ハンドリー、青年ジェラン・ハウエル、中年ティム・ロス)、ドヴィドル(ルーク・ドイル、ジョナ・ハウアー・キング、クライブ・オーウェン)という6人のキャストが登場する。中でも達者な子役とロスの渋い演技が目を引く。
ミステリーに内包するテーマは、友情、音楽、宗教、信仰、ユダヤ人、そしてホロコースト。原題の「名前たちの歌」は、ユダヤ人がホロコーストの犠牲者の名前を歌にして記憶することを差す。これも実在するのか興味が湧いた。
それにしても、ホロコーストを直接的、間接的に描く映画がいまだに後を絶たない。もちろん、決して忘れてはならないことだが、これは映画関係者にユダヤ系の人が多いことも作用しているのでは、と思ったりもする。
『ボーイ・ソプラノ ただひとつの歌声』
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