あの二人がその後どうなっていったのかを僕なりに妄想してみました。
天沢聖司君
1995年 渡伊。彼の持っている技術はクレモナにある伯父の知り合いが営む工房に住み込みで修業を積むことを許されたが、言語の壁などが原因でホームシックに陥る。
しかし、雫との約束を思い出し努力を重ね3年後には工房で働く人たちと冗談を言い合えるほどの語学力を習得し良好な関係を築いた。それに伴いバイオリンの製作技術も上達していたが、店主の勧めで国立弦楽器制作学校へ入学し工房で働きながら学術的に学ぶ。その間、雫とは手紙のやり取りで気持ちを伝えあっていたが、学業や仕事、クレモナで出来た友人たちとの交流が増していくと共に減っていった。
学校を卒業後、工房での生活を送りつつ下積みを続けていたある日、彼に思わぬ転機が訪れる。
工房のお得意様であったジュセッペ・ヴェルディ音楽院に通う女学生サンベレッツが大切なコンテストの前日に不運ともいうべきアクシデントでバイオリンを傷つけてしまう。損傷がひどくすぐには治せないほどであったので店主のモラッシーは天沢が数日前に作成したバイオリンが良い出来であったことを思い出し、天沢の名を伏せて無償で貸し出す。
サンベレッツは戸惑いながらもモラッシーの言葉を信じて天沢のバイオリンでコンテストに挑んだ。結果は優勝を逃したものの彼女の技術は評価は高く、会場にいた人々も彼女の演奏に聞き入っていた。もちろんそのバイオリンの音色が良かったことも誰もが認め、演奏者であるサンベレッツも同じであった。
結果をモラッシーに報告すると、そのバイオリン製作者が天沢であることを伝える。
天沢とサンベレッツは工房で時々顔を合わせ挨拶するだけの中であったが、そのことがきっかけで個人的に天沢にバイオリンの修理を依頼するようになり、モラッシーも天沢の成長を喜んだ。
サンベレッツは、エレミア・ロマーナ州でd・o・c・gワインの酒造会社の社長令嬢であったが、天沢の技術と人柄に次第に魅かれゆき、天沢を実家に招待するほどになった。天沢も臆することなく彼女の家族と接し信頼を得ていった。
サンベレッツは音楽院を卒業後、ウイーンに活動拠点を移すこととなり、彼女の強い希望で天沢を連れていけないかと工房の店主であるモラッシーに相談すると、ウイーンで工房を開いている友人ハインリヒに連絡する。
モラッシーの勧めならばとハインリヒも快く承諾。彼女と共にウイーンに移住し2年ほど同棲した後、自然の流れで結婚。
サンベレッツの活躍もあり交響楽団内で天沢の名が知れ渡り、その後サンベレッツの父の援助を受け独立。32歳にてウイーンに工房を構える。
月島雫との連絡はサンベレッツの交際後絶えてしまい、次に出したのは結婚報告の葉書であった。
月島雫さん
地元の公立高校に進学。天沢の手紙を待ちつつ文学の道を志す。高校時代にも物語を作っては投稿してみるが道は開かれず。その度に「地球屋」の西司朗に意見を乞うていた。
可愛いルックスから同級生の男子から告白されるも、天沢との約束を信じてかたくなに断っていた。
高校を卒業後、駒沢女子大人文学科に入学。華やかなキャンパスライフも顧みず天沢の手紙を何度も読み返し勉学と創作活動に励む。友人は沢山でき、合コンも幾度となく誘われるが、参加してみたものの天沢の事が気になり行かなくなってしまう。
どうしてなのか疑問に思った友人達は雫に問うと、もじもじしながら今までの経過を吐露した。それを聞いた友人たちは感動し誘う事を止め彼女の恋を応援した。
大学を卒業後、なんとか小さな出版会社に就職し仕事と創作活動とを両立させていたが、この頃から天沢の手紙が減って雫の気持ちを不安定させた。その度に「地球屋」にいって西に話を聞いてもらって気持ちが沈んでいかないようにしていた。
しかし、ある日天沢がウイーンに移る理由を認めた手紙が届く。その内容に愕然とした雫は一週間ほど寝込んでしまう。その後、仕事にも創作にも気が入らない空虚な日々が時々彼女を襲いその度に寝込んだが、地球屋に足を運び、西に話を聞いてもらいながらゆっくりと自分を取り戻していった。
その悲しみの失意から創作されたのが「猫の恩返し」であった。この物語は、とある出版社に認められ書籍と言う形となった。自身の手元に最初に届いた本は報告と共に西にプレゼントした。それを受け取った西はとても喜んで「原石から宝石へと生まれ変わろうとしているね」と言って雫の今までの苦労をねぎらった。
雫はこの作品を機に児童文学の作者へと進んでゆくことになる。
30歳の時、雫の出版会社に広告の依頼で訪れた中学時代の同級生、杉村と偶然再会する。
仕事の話もそこそこに、これまでの経過を互いに語り合い二人の時間を埋めていった。杉村は本気で野球選手を目指していたが、高校生活の三年間、連続で地区大会止まりという結果に終わり夢をあきらめたようである。しかし雫の事は心のどこかで想い続けていたようであるらしい。
この頃、天沢からの結婚報告を受けていた雫は気持ちを切り替えようとしていた時期であった。時頼不意に口ずさむ自らが和訳した「カントリーロード」が彼女の後を押したようで、杉村とプライベートでも会うようになってゆき、次第に杉村の人柄と強い押しにひかれ、自身の心が氷解してゆくのを感じ結婚を決めた。そして、杉村の勧めで専業主婦をする傍ら創作活動に専念。ようやく訪れたささやかな幸せであった。
そして、2013年 初春。
天沢と雫に訃報が届く。地球屋の主人西司朗が死去した知らせであった。
彼と彼女が18年ぶりに再会したのは葬儀が執り行われている教会であった。
天沢聖司君
1995年 渡伊。彼の持っている技術はクレモナにある伯父の知り合いが営む工房に住み込みで修業を積むことを許されたが、言語の壁などが原因でホームシックに陥る。
しかし、雫との約束を思い出し努力を重ね3年後には工房で働く人たちと冗談を言い合えるほどの語学力を習得し良好な関係を築いた。それに伴いバイオリンの製作技術も上達していたが、店主の勧めで国立弦楽器制作学校へ入学し工房で働きながら学術的に学ぶ。その間、雫とは手紙のやり取りで気持ちを伝えあっていたが、学業や仕事、クレモナで出来た友人たちとの交流が増していくと共に減っていった。
学校を卒業後、工房での生活を送りつつ下積みを続けていたある日、彼に思わぬ転機が訪れる。
工房のお得意様であったジュセッペ・ヴェルディ音楽院に通う女学生サンベレッツが大切なコンテストの前日に不運ともいうべきアクシデントでバイオリンを傷つけてしまう。損傷がひどくすぐには治せないほどであったので店主のモラッシーは天沢が数日前に作成したバイオリンが良い出来であったことを思い出し、天沢の名を伏せて無償で貸し出す。
サンベレッツは戸惑いながらもモラッシーの言葉を信じて天沢のバイオリンでコンテストに挑んだ。結果は優勝を逃したものの彼女の技術は評価は高く、会場にいた人々も彼女の演奏に聞き入っていた。もちろんそのバイオリンの音色が良かったことも誰もが認め、演奏者であるサンベレッツも同じであった。
結果をモラッシーに報告すると、そのバイオリン製作者が天沢であることを伝える。
天沢とサンベレッツは工房で時々顔を合わせ挨拶するだけの中であったが、そのことがきっかけで個人的に天沢にバイオリンの修理を依頼するようになり、モラッシーも天沢の成長を喜んだ。
サンベレッツは、エレミア・ロマーナ州でd・o・c・gワインの酒造会社の社長令嬢であったが、天沢の技術と人柄に次第に魅かれゆき、天沢を実家に招待するほどになった。天沢も臆することなく彼女の家族と接し信頼を得ていった。
サンベレッツは音楽院を卒業後、ウイーンに活動拠点を移すこととなり、彼女の強い希望で天沢を連れていけないかと工房の店主であるモラッシーに相談すると、ウイーンで工房を開いている友人ハインリヒに連絡する。
モラッシーの勧めならばとハインリヒも快く承諾。彼女と共にウイーンに移住し2年ほど同棲した後、自然の流れで結婚。
サンベレッツの活躍もあり交響楽団内で天沢の名が知れ渡り、その後サンベレッツの父の援助を受け独立。32歳にてウイーンに工房を構える。
月島雫との連絡はサンベレッツの交際後絶えてしまい、次に出したのは結婚報告の葉書であった。
月島雫さん
地元の公立高校に進学。天沢の手紙を待ちつつ文学の道を志す。高校時代にも物語を作っては投稿してみるが道は開かれず。その度に「地球屋」の西司朗に意見を乞うていた。
可愛いルックスから同級生の男子から告白されるも、天沢との約束を信じてかたくなに断っていた。
高校を卒業後、駒沢女子大人文学科に入学。華やかなキャンパスライフも顧みず天沢の手紙を何度も読み返し勉学と創作活動に励む。友人は沢山でき、合コンも幾度となく誘われるが、参加してみたものの天沢の事が気になり行かなくなってしまう。
どうしてなのか疑問に思った友人達は雫に問うと、もじもじしながら今までの経過を吐露した。それを聞いた友人たちは感動し誘う事を止め彼女の恋を応援した。
大学を卒業後、なんとか小さな出版会社に就職し仕事と創作活動とを両立させていたが、この頃から天沢の手紙が減って雫の気持ちを不安定させた。その度に「地球屋」にいって西に話を聞いてもらって気持ちが沈んでいかないようにしていた。
しかし、ある日天沢がウイーンに移る理由を認めた手紙が届く。その内容に愕然とした雫は一週間ほど寝込んでしまう。その後、仕事にも創作にも気が入らない空虚な日々が時々彼女を襲いその度に寝込んだが、地球屋に足を運び、西に話を聞いてもらいながらゆっくりと自分を取り戻していった。
その悲しみの失意から創作されたのが「猫の恩返し」であった。この物語は、とある出版社に認められ書籍と言う形となった。自身の手元に最初に届いた本は報告と共に西にプレゼントした。それを受け取った西はとても喜んで「原石から宝石へと生まれ変わろうとしているね」と言って雫の今までの苦労をねぎらった。
雫はこの作品を機に児童文学の作者へと進んでゆくことになる。
30歳の時、雫の出版会社に広告の依頼で訪れた中学時代の同級生、杉村と偶然再会する。
仕事の話もそこそこに、これまでの経過を互いに語り合い二人の時間を埋めていった。杉村は本気で野球選手を目指していたが、高校生活の三年間、連続で地区大会止まりという結果に終わり夢をあきらめたようである。しかし雫の事は心のどこかで想い続けていたようであるらしい。
この頃、天沢からの結婚報告を受けていた雫は気持ちを切り替えようとしていた時期であった。時頼不意に口ずさむ自らが和訳した「カントリーロード」が彼女の後を押したようで、杉村とプライベートでも会うようになってゆき、次第に杉村の人柄と強い押しにひかれ、自身の心が氷解してゆくのを感じ結婚を決めた。そして、杉村の勧めで専業主婦をする傍ら創作活動に専念。ようやく訪れたささやかな幸せであった。
そして、2013年 初春。
天沢と雫に訃報が届く。地球屋の主人西司朗が死去した知らせであった。
彼と彼女が18年ぶりに再会したのは葬儀が執り行われている教会であった。