硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  22

2013-07-30 06:20:23 | 日記
「やっぱり凄いよ・・・。天沢君も変わらないね。」

「でしょ。だからイタリアの伊達男っていうのだけはやめてね。」
そう言って、また笑った。このままずっと彼の隣りで話を聞いていたいなと思ったけれど、駅はもうすぐだった。これが後ろ髪惹かれる想いというものなのだろうか。そんな気持ちを抱いている事を悟られまいと、思い切り背伸びをして話を切り出した。

「今日は、本当にありがとう。とても楽しかったわ。次は追悼ミサであえるのかな。」

「そうだなぁ。何かと多忙だしね・・・。そうだ。アドレス教えてくれる?」

「あっ。うん。いいよ。」そう言って、なぜか狼狽する私。慌ててポシェトから携帯を取り出す。

駅前のロータリーに車を止めた天沢君は、ジャケットの内ポケットからスマホを取り出した。彼の携帯の待ち受け画面をちらりと見ると、綺麗なブロンド髪の女性が写っていた。

「え~っと。赤外線機能だったかな。」

「そうそう。こうやって近づけてクリックすると・・・。」

「あー。きたきた。じゃあ、時間が出来たら連絡するよ。」

「・・・うん。」

天沢君は車から降りると、助手席側に回りドアを開けてくれた。なんとジェントルマンなんだろうか。恥ずかしい気持ちと嬉しい気持ちが入り混じって複雑だけど、気後れしないように車から降りると、彼は「じゃあ。また。」といって、私をハグした。

「えええっ!!」

「なになに。そんなにびっくりした?」

彼の腕の中で狼狽する私。その様子を上からのぞきこむ彼。しどろもどろになりながら、

「えっ。ええっ。ごめんなさい。こういうのほんと慣れてないから。」

「顔。真っ赤だよ。」

「・・・ばか。」

そう言って彼の胸を両手で押し返した。

すると、「雫らしいね。」と言って、軽く微笑んで車に乗り込んだ。
翻弄されている。そう思ったけれど、揺れる気持ちをどうする事も出来ない。
車の中から手を振る彼に手を振り返し、彼の車が見えなくなるまでその場に立ち尽くした。

辺りはすっかり暗くなり、街灯の明かりが忙しそうに家路へ向かう人達を照らし出していた。
私は大きく息を吸ってから、「えいっ!」と、気合を入れなおして駅へと向かった。それでも切符を買い改札を抜けると、なんだか悔しくなってきたから階段を全力で駆け上がってやった。