硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  10

2013-07-18 06:00:50 | 日記
「あの~。西さんってどんな人だったんですか。」

「そうだな。医師としては一流。父としては・・・。どうだろうか、登志子さん。」

「お父さんは・・・。いつも忙しそうであまり家にいなかったわ・・・それでもね。優しくしてくれた。大学への進学へも、あなたとの結婚のときさえも反対しなかったわ。」

「そうか。じゃぁ父親としても立派な人だったんだね。」

「もちろんよ。でも父がどうして医者を志したかは一度も語ずじまいで・・・。おばさま。何か知ってらして。」

おばさまと言われた窓際に座る品のいい御婆ちゃんは和服姿が凛として銀縁の細い眼鏡が良く似合っている。昔はとても綺麗だったんだろうなと思った。
おばさまは小さな声で「そうねぇ。」というとしばらく考えてから、

「さて、どこから話せばいいのやら・・・。ここにいる皆も知っておくべき事なのかもしれないから、ちょいと話してみましょうかね。」

コーヒーカップを品良く持ち、コーヒーを一口飲んだ後、西さんの事を話しだした。

「西の家系はもともと薩摩藩、島津家の家臣で武家なのよ。戊辰戦争でも活躍したという話よ。」

「ええっ。そんな話初めて聞いたよ。」皆が一斉に驚いていた。こういう話は語り継がれなかったのだろうか。それとも意図的に語らなかったのだろうか。

「それでね。明治維新後、その活躍が認められ、陸軍大佐として仕えたのが、私のひいお爺さんに当たる人ね。その息子のお爺さんも陸軍大学を出て偉い人になったと言っていたわ。その影響を色濃く受けた主人とお兄さんも軍人になったけれど、司朗さんだけは軍医を目指したの。たしか軍医をしてらした森さんと言う人を尊敬していたからと聞いたわ。皆からすれば少し変わった人だったけれど強い志を持っていたのよ。」

「西の家系は侍だったの?」天沢君が口を開いた。おばさまは軽くうなずいた。