硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  3

2013-07-11 19:49:44 | 日記
私も花を一輪手に取り、安らかに眠る西さんの手元に置いて今迄ありがとうと呟いた。
感謝の気持ちでいっぱいなんだけれど、もう話を聞いてもらえないのかと思ったら、自然と涙があふれ出てきた。

「もう泣いてはいけないんだ。」と思い、涙を手で拭い教会の天井を見上げたけれど余計に涙が出てきてなかなか止まってくれない。

悲しくないのに涙が出るなんて今まで経験したことがないから、どうする事も出来なかった。

壇上を去る時、彼も私に気づいて目があった。涙でボロボロの姿を見られて気恥ずかしくなったから、無理に笑顔を作って軽く会釈し、何事もなかったように彼の横を通り過ぎ元の席に座った。

出棺が始まり私たち一般会葬者は教会の外に出た。北風が少し冷たいけれど、よく晴れた日で良かったと思う。

しばらくすると、棺を持った親族の人たちがゆっくりと教会から出てきた。その中に天沢君の姿を見つけた。
出来る事なら私も一緒に棺をもちたい。そんな気持ちを抱きながら西さんの最期の姿を見送った。

霊柩車の扉が閉じられ、あいさつの後に鳴らされた車のクラクションが初春の空に溶けていった。
その様子をぼんやりと眺めていたら親族の人たちも移動を始めた事に気づいた。

もう終わったのかなと思って一緒に見送っていた人に尋ねると、帰宅すると言ったので、私も帰宅しようと歩きだした。

すると懐かしい声が私の名前を呼んだ。

「雫!」

ドキドキしながら振り向くと、彼は手を振りながら私に近づいてきて、少しはにかみながらゆっくりと言葉を切り出した。

「雫・・・。あっ。今から火葬場に行くけれど、雫も一緒に来てくれないか。」

私はその言葉を待っていたように思った。それと同時に一瞬であのころに戻ったような気がした。

「うん。私も西さんを最後まで見送りたい。」

「じゃあ、あっちに車を止めてあるから、乗って行けよ。」

そう言って差し出した彼の右手を私は握った。

「うん。ありがとう。」

私は何も躊躇わなかった。