硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  14

2013-07-22 05:28:34 | 日記
もし私が不治の病だとしたらそんな勇気が出ただろうか。きっと思い切り泣いて拒んだままどこかに逃げてしまうにちがいない。そう思った。

「それでも、司朗さんは諦めなかったのね。明日には亡くなる命かもしれないのにそれを承知で「それでもいい。」と、ずっと言い続けていたそうよ。それで、とうとう根負けして交際を始めたって言ってたような気がするわ。」

「へぇ。お祖父ちゃんやるねぇ。」そう言って天沢君は笑った。

「西にもそういうところがあったなんて意外だな。」

「あらあなた、お父さんはそういう人よ。気がつかなかったの。」

「いやぁ。面目ない。」

そう言って苦笑いをした。どうやらお父さんは登志子さんに頭が上がらないようだ。

「でもね。志げさんの胸の内はずっと心苦しかったのよ。相手は医者で将来が有望されている。方や蜻蛉のような儚き命。これでは釣り合いが取れないと交際を始めたころはよく零していたわ。」

分からないけれど、なぜか心が痛んだ。

「だから、志げさんは、司朗さんの厚意に応えようと、いつも今日が人生の最期と思って日々を一生懸命に生きていたと思うの。もちろん司朗さんもね。」

「そうだったの・・・。母に比べれば私の覚悟なんてまだまだね。」

「何をおっしゃる。登志子さんも十分やっていると思うよ。」

「うん。僕もそう思う。決して義母さんに負けていない。尊敬できる人だよ。」

「あらやだ。ありがとう。そんなに褒めたって何も出やしないわよ。」

「登志子さんは本当に素直じゃないねぇ。」

「おあいにくさま。」

そう言うと、皆が一斉に笑った。私もおかしくて笑ってしまった。