硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

耳をすませば。 彼と彼女のその後  7

2013-07-15 16:15:01 | 日記
堰を切ったように話してしまった。すると感情も高ぶってしまいまた涙が出てきた。泣き虫なのは自覚してはいるけれど、ここまで泣けるかなと思うほど今日は泣けてしまう。でも、仕方がないとあきらめる。
その様子を横で見ていた天沢君が黙ってハンカチを差し出してくれた。その優しさにまた泣けてしまう。嫌だな私・・・。

すると、天沢君のお父さんの後ろから「あらあら。」と、優しくて柔らかい声が聞こえてきた。

「なに、あなた。また、若いお嬢さんを泣かせてしまったの。仕方のない人ねぇ。」

「またって・・・。嫌だなぁ。登志子さん。そんな言い方じゃぁ僕が悪人のようではないか。」

「あら、悪人ではなくて。」

「ひどいよ母さん。それは言いすぎなんじゃない。」

「じゃあ、罪深い人たちね。」

「ええっ。僕も含まれちゃうの!」

いい大人の男性が狼狽している。その姿を見て、ついさっきまで泣いていたくせに、くすっと笑ってしまった。
彼らを手玉に取る女性は、ロマンスグレーの髪を結い、背筋もピンと伸び、喪服姿すらも美しい。そして歯に衣着せぬ物言いといい、感動に近いものを感じた。

登志子さんは私の前に来ると軽く会釈をした後、

「はじめまして。雫さんでしたね。私、聖司の母、登志子と申します。聖司が中学生の時には随分とお世話になったそうですね。そして父の話し相手にもなって頂いてくれていたそうで。二人の間にそんな方がいらっしゃるのかと、とても嬉しく思っていました。それがあなただったのですね。本来ならもっと早くご挨拶するべきところなのに本当にごめんなさい。」

その挨拶に圧倒され、私は「はい、はい」と答えるだけで精いっぱいだった。

「そうだ、ここで立ち話もなんだから、時間までそこの喫茶室でお茶などどうですか。親族と言っても、私たちと父の妻と甥っ子夫婦だけなんだから遠慮しなくてよろしくてよ。」

これには弱った。さっき断ったばかりなのに、とても丁寧に挨拶された上で、断らなければならないのが心苦しくてしようがなかった。それを察してか、私の横にいた天沢君が

「そうだよ。遠慮しなくていいよ。御爺ちゃんだってそう思ってるはずだよ。もしかしたら、御爺ちゃんが地球屋を始めてから一番話したのは雫かもしれないしね。」

「うん。そうだよ。遠慮しなくていいよ。無理に西の事を話さなくてもいいから。」

一度お断りしたのに、お父さんも快く同意してくれている様子を見てとても安心した。すると登志子さんが

「お父さんこと? どうしてまた。」と、お父さんに問いかけた。その問いにしどろもどろしながら応えている。それを見た天沢君は「また始まった」という感じで苦笑いをしていた。その言い訳を一通り聞いた登志子さんは私の方を向いて、

「ねえ。雫さん。よかったら、私にも聴かせてくださいませんか。それに父と仲が良かったのなら、父が地球屋を営むまでの事を知りたいでしょ。父は口が堅い人でしたから、自身の過去の事はあまり口にしなかったはず。」

ああそうだ。私、いっぱい西さんと話したのに、西さんの事ほとんど知らないまま来てしまったんだ。そう思ったら、西さんの事を知りたくなって、「はい。では、よろしくお願いします。」と自分でもびっくりするような返事が口から飛び出していた。