日々のことを徒然に

地域や仲間とのふれあいの中で何かを発信出来るよう学びます

セ ミ

2015年09月15日 | エッセイサロン
2015年09月15日 中国新聞セレクト「ひといき」掲載 



 台風一過の朝、少しひんやりとした。爽やかな空気を思いきり吸い込もうとした。その時、降ってきたように、どこかから落ちてきたものがあった。

 それは何かと見れば、1匹のセミだった。よく見ると羽の先端はちぎれ、既に果てている。風に乗ってきたのか、鳥が運んでいる途中で落としたのか、上空を見回すが分からない。何かの縁で、わが家の狭い庭へ落ちたのだろう。

 セミは、身近にいて害もなく、誰もが親しめる昆虫で、思い出も多いと思う。地表に出てからは1週間の寿命と子どもの頃に聞いたのを今も覚えている。「観察したら放してやれ」。そんな心優しい人もたくさんいた。しかし、夏休み作品の一つに昆虫標本は欠かせない。セミは種類が多く、子供でも容易に捕れる貴重な標本対象なので、じっと木を見上げたものだ。

 最近のセミの研究では、地表に出て1ヵ月近く生きるものや、大型のセミほど長生きするというリポートがある。地下で過ごす7年近い期間を加えると、昆虫類の中では長寿というが、実感はない。鳴き始めてから1週間の寿命という説の方が命の大切さをより強く感じさせる。

 そのセミを手のひらにのせて見る。羽は先端がぎざぎざにちぎれていて、これでは飛べない。これは、ひと夏を満喫するまで飛んだ証しだと思う。

  「7年先、もう一度生まれ変わって出てこい」 

 そう言いながら、庭木の根元に埋めた。
コメント (2)
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