TENZANBOKKA78

アウトドアライフを中心に近況や、時には「天山歩荷」の頃の懐かしい思い出を、写真とともに気ままに綴っています。

「おこじろ様」と「おしめん様」

2016年02月04日 | 島原
ふと目にした「歴史漫画『いさはや』」の巻末に、諫早の方言がまとめてあった。
その中に、「これわ」が載っていて、意味は「ありがとう」だった。

思わずうれしくなった。
半世紀前の島原のことだが、私の祖父は来客との別れ際によく「これは、これは」と言っていたのだ。

今島原で「これは、これは」を使う人はいない。

「これは、これは」は、「これはこれは、本当に(お出でくださり)ありがとうございました」と感謝の言葉であると自分なりに理解していた。
「これは」は、「こんにちは」や「こんばんは」のように後の部分が省略された形のあいさつ言葉で、しかも二回くり返すことでより感謝の意を深く表している。

「これわ」じゃなくて「これは」と表記すべきであろうが、それはさておいて、「これは(わ)」が方言として取り上げてあったことが驚きであり嬉しかった。なぜなら、方言についてはいろいろとネットや本で調べているが、「これは」はどこにも見当たらなかったからだ。(単に私の研究不足かも知れないが)

祖父はやさしかった。祖父が使っていた言葉には温もりがあり、今でも私の中で生きている。
祖父が生まれたのは明治で、ラジオもまだ普及していなかった時代だから、情報は書物か口伝えであった。特に、親から子へといく代に渡って言い伝えられた言葉は、その地方の歴史であり文化であった。やがてラジオが普及し、そしてテレビが全家庭に普及し方言は激減した。言葉が全国的にそろってきたのは大きな進歩かもしれないが。

方言を調べれば調べるほどに、その中にいろいろないわれや価値があることが分かってきた。
地名についてはこれまでも述べてきたが、今回は島原の実家の近くにある2つの神社の呼び方について述べてみたい。

その2つの神社は、ゼンリンの地図等に「高城神社」、「三会温泉神社」と表記されている。読み方は「日本の神社・寺院検索サイト」にもあるように「たかしろじんじゃ」、「みえおんせんじんじゃ」が一般的だ。しかし、祖父はもちろん、父も私も「おこじろさま」、「おしめんさま」と呼んでいた。

「おこじろ様」は「おこじろ様」で地域の人はみんなそう呼んでいる。活字やネット等の検索サイトがなければなんの疑いもなく「おこじろ様」である、これからもずうっと。


はじめに「おこじろ様」こと「高城神社」について


なぜ「おこじろ様」なのか、ここからは私の私見である。
高城の「高」を音読みして「こうじろ」と考えていた。それに敬意を表して「おこじろ様」と。
ところが、現地に行ってよくよく見てみたら、鳥居には「古城宮」とあるではないか。



なるほど、これなら「古城」を「こじろ」と読み、敬意を払って「おこじろ様」だ。
ただ、鳥居を寄進した人が、昔からの言い方でそう表記した可能性もある。
ネット検索で、「古城宮」で「おこじろさま」と言う例は出てこない。いつか、地域の長老に尋ねて見ようと思う。おっと、私の父などが長老の部類なのだが、父に尋ねても
「『おこじろ様』は『おこじろ様』たい」の一言。



次に「おしめん様」こと「温泉神社」について










バス停は「三会神社」、地図等には「三会温泉神社」、鳥居や社には「温泉神社」と書かれている。
これについては歴史書をはじめいろいろな文献に登場しているので、そのルーツが分かった。

まず「温泉」の読み方は歴史的には「うんぜん」である。

「うんぜん」といえば「雲仙」が真っ先に思い浮かぶのだが、「雲仙」という表記は昭和9年に新しくできたもの。それまでは「温泉」と書いて「うんぜん」と読んでいた。
昭和9年に、日本で最初の国立公園になるのにともない、いわゆる「温泉(おんせん)」との混乱を避けるために「雲仙」と表記をあらためた経緯がある。

温泉山(今の雲仙岳)は高野山、比叡山と並ぶ山岳宗教の「三山」で、古くから信仰の山であった。701年に大乗院満願寺が建てられ、それを守る神として温泉神社四面宮ができている。その分社が千々石、山田、有家、諫早の四社で、それらはいずれも地元の人から「おしめんさま」と呼ばれている。さらに神社は増えて温泉山(雲仙岳)を囲むように、島原半島の各村に温泉神社が置かれていった。三会の温泉神社もその一つである。元をたどれば「四面宮」なので「おしめん様」なのである。

諫早神社も地元の人は「おしめんさん」と呼んでいる。温泉神社四面宮の分社は「おしめんさん」または「おしめん様」なのだ。
これは記録や文献が多いのでルーツをたどることができたが、ルーツなど知らなくても「『おしめん様』は「おしめん様』たい。昔からそがん言いよっと」と父から叱られそうである。

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