仮面と素面
暫くトキと駆け引きする
交渉人になるのだ
時刻は丑寅の闇の間
僕は何とか
寅の尻尾まで粘りたいと
片肌脱いで事に当たる
梅雨末期の
気怠い雰囲気が
周囲を漂う
ここで負けては無に成る
何も引き出せない儘では
唯、トキの無駄遣いの極みに成る
僕はトキの陰影と必死に闘う
正体の無い
実体を現わさぬ相手と
悪戦苦闘する
暗闇は移ろわない
時刻は底なし沼のように
手応えはない
自失になりそうな暫くを
踏ん張る
そういう瞬間を経なければ
トキとの戰では
戦利品など望むべくも無いのだ
僕はだんだん
夢幻の仮面を脱いで
素面しらふに戻ってゆく
さて
戰は始まったばかり
いつでも
始まりの感覚
ぼんやりと
卯の耳が見える
どうやら
暗がりはトキに追放された
そのトキに庇護されて僕は
再びの戦支度を・・
と、既にトキに牙など無く
互いに無傷の明るさを迎えている
それでいい
血腥ちなまぐさの困惑は御免だ
僕とトキと共存共栄
古臭い言葉でも
それが何よりの安定を育む
過去からの遺言なのだ
午前五時
斯くして、一聯の諍いを終える