明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1122)美しい山河を守るために(愚かなリニア新幹線計画を止めよう)

2015年08月09日 11時02分00秒 | 明日に向けて(1101~1200)

守田です。(20150809 11:02)

(この記事は8月9日に書いたものです。標高1700メートルのキャンプ場にいて電波が通じなかったので、ネットにアクセスできた8月11日に投稿します)

 

 長野県伊那谷の大鹿村で行われている「お山の上でどんじゃらほい」に参加しています。ここは電波が届かないところなので投稿は下界に降りてになります。

 今日は8月9日。長崎に原爆が投下されてから70年の日です。

 お祭りでは原爆投下時間の11時02分に黙祷を行い、続いて長崎出身の「風月の純」さんが、詩の朗読を行ってくれました。

 純さんは爆心地にあった浦上天主堂について語られました。広島の原爆ドームと同じように、浦上天主堂は被害を受けたままに残すべきだった。そして世界遺産にすべきだった。

 黒こげになった天使たち、ケロイドをおびたマリア像、それをそのままに残し、原爆ドームのように祈りの場とすべきだった。しかしアメリカが教会を惨く破壊した事実に耐えられずに建て替えを押し進めたのではないか。

 自分はあの時の浦上天主堂を見た最後の世代としてこのことを語り継がねばならない。

 なるほどなあと思いました。そういう視点で浦上天主堂を見た事はありませんでした。この点はもっと掘り下げてみたいと思います。

 なお純さんの詩はあとからファイルでいただけることになりましたので、入手次第、この場で掲載させていただこうと思っています。

 

 僕自身は昨日8日午後2時から「戦後70年、この国はどこに行く?」というタイトルでお話しさせてもらいました。この夏、一番伝えたい課題である「戦争と原爆と原発と放射能被曝」の太い関係性をメインに話しました。

 大鹿村特有の課題としてはこの町を「貫いて」作られようとしているリニア新幹線についても触れさせていただきました。今ここではリニア新幹線のことに触れておきたいと思います。

 

 リニア新幹線は東京から大阪に向けて作られようとしている巨大プロジェクトです。そのうちの東京−名古屋間が2027年までに作られようとしています。

この間の総距離286キロのうちなんと86%の250キロがトンネルで作られようとしています。南アルプスの下を通り、大鹿村付近で出てきて飯田市に駅を設けようとしています。とんでもない計画です。

 大鹿村ではトンネル堀によって東京ドーム3個分の残土が出てきてします。そうなるとトラックによる運び出しが必要であり、なんと最大で一日1736台のトラックが大鹿村から中川村を通ることになります。人口1100人余り村の中を1日2000台近いトラックが走り回るというのです。それだけでも村の生活が抜本的に破壊されてしまいます。

 そもそもリニアは現行の新幹線と比べてエネルギー効率が大変悪く、JR東海の控えめな計算でも3.5倍もの電力を必要とします。その意味では原発の再稼働や増設とセットの計画です。

 僕が述べたのはこんなものは実現不可能であり、必ず失敗するということです。何よりこんな長いトンネルなど人類は掘ったことがありません。その間の地殻がどうなっているか分からないことが多すぎます。

 とくに南アルプス付近はJR東海自身も難工事を認めているところです。トンネルからの上にもっとも多くの土があることになるところでは1400メートルも土が堆積していることに上になります。そんな難工事が簡単に進むはずがない。

 しかもこの地域は山々に降る膨大な水をたたえた巨大な水源です。トンネルは水瓶に穴をあける工事で、何が起こるか分からない。各地で水涸れが起こる可能性もあります。

 そもそもトンネル工事には「掘ってみなければ分からない」要素がたくさんあると言われています。しかも高速が売り物のリニア新幹線ではトンネルは長距離にわたってまっすぐに掘られなければならない。掘り進んで途中で迂回することが困難なのです。

 その上、たとえ完成しても営業的に採算が取れる補償すらないのです。JR東海の試算によれば、なんと見込まれる集客の62%は東海道新幹線の乗客からの移行だとされています。なんのことはない。JR東海としてはその分、現行の新幹線の客が減ってしまうだけなのです。このため前の社長自身が「リニア新幹線はペイできない」という重大発言を行っています。

 

 技術的に難問山積で不可能性が高く、絶大な環境破壊が確実に起こり、さらに採算割れしかのぞめない、にもかかわらずこの計画は進められようとしています。なぜか。日本の企業や政府、官僚の中枢のモラルが地に落ちているからです。株が上がって今、てっとり早く儲かればいい。後は野となれ山となれ。そんな状態だからこそ、こんな計画が進められようとしているのです。

 しかし大事なのはこの国の中枢の人々がモラルハザードに陥り、とんでもないことがあちこちで行われている事に、今、ようやくこの国に住まう人々が気付き始めている事です。福島原発事故がそれを大きく促進しました。最近では東京オリンピックに向けた新国立競技場建設でも、あまりにひどい計画が進められていることに人々が気づき、批判が高まって政府に建設断念を発表させる事態になりました。

 僕はリニア新幹線でも同じ事が起こりうると思っています。計画を前に進めれば必ず杜撰さや不可能性がもっと表立ってきます。そのとき可能な限り早く人々の覚醒を呼び起こすことができればこの計画も止めることができます。繰り返しますがあまりにひどい計画だからです。

 

 ではそのために何が必要なのか。第一にリニア新幹線の技術的な問題点の暴露、周知を行うことです。これについては多くの方々がすでに論陣を張っています。さしあたってあげられる参考文献として2014年10月発表の『日本の科学者』を紹介したいと思います。

 また「リニア・市民ネット」が出している『リニア中央新幹線は疑問がいっぱい』というリーフレットも参考になります。同団体のアドレスを紹介します。

http://www.gsn.jp/linear/linear.html

 

 これらを前提としつつ、僕がお祭りの場で述べたのは、リニア新幹線が貫通しようとしている南アルプスの自然の素晴しさ、貴重さです。

 そもそもこの地域がなぜアルプスと命名されたのか。名付けたのは明治時代にここを訪れたイギリス人鉱山師のウィリアム・ゴーランドですが、「日本アルプスの父」と呼ばれたイギリス人宣教師で登山家でもあったウォルター・ウェストンが何度もヨーロッパにこの名を紹介する事で定着していきました。ウェストンはスイスアルプスに匹敵するものとして日本アルプスを捉えましたが、その多様性については世界に並ぶものがないとも称しています。

 なぜか。日本列島と比較した時、ヨーロッパアルプスは緯度が北にあり、氷河を抱えています。または氷河期の影響も強く受けており、そこからまだまだ回復の途上にあります。また地質もあまり変化がなく単調です。これらのためヨーロッパアルプスは樹木の種類が単調で、変化に欠けるのです。

 

 これに対して日本列島は緯度が低く、温順で生物が生息しやすい環境が整っているとともに複雑な自然条件に恵まれています。その中でも日本アルプスは非常に複合的な地帯としてあるのです。

 日本は全体として温帯性気候の中にありますが、その中にも暖温帯と冷温帯の違いがあります。それぞれ代表する樹木は常緑広葉樹と落葉広葉樹です。ブナ科のカシやシイ、ブナやミズナラ、コナラなどです。日本アルプスはこれらの木々が大きく混交する地域です。

 常緑樹は葉があつくテカテカしている。落葉樹は葉が薄く陽を通しやすい。そのため違う輝き方をする。夏でも山に大きな変化をもたらします。

 しかも山は上に上がるほど温度が低くなるので、高度によってもこれらの木々の分布が変わってきます。さらに高く登っていくと気候帯的には亜寒帯に入るため常緑針葉樹、落葉針葉樹も出てくる。このため山々の様相が歩くにつれ、あるいは登るにつれてめくるめく変わり、非常に豊かなのです。

 この上に日本海側気候と太平洋側気候の違いもある。降水量が夏と冬で真反対になります。とくに日本海側からはジェット気流も流れてきます。日本海の湿った空気を取り込んだこの気流は冬に世界でもまれなほどの降雪量をもたらします。降り積もった雪は雪渓を形成し、天然のダムとして麓に安定的に水を供給し続ける。命の源の水が豊富に与えられるのです。ちなみに日本と同じ緯度帯で雪渓が形成される国は他にほとんどありません。

 ジェット気流はまたヒマラヤの山々から高山植物の種をも運んできます。このため緯度的にも高度的にも高山植物が生息し得ない条件ながら、数々の可憐な花が日本アルプスで咲き誇るのです。

 反対に太平洋側では夏に繰り返し台風がやってきてたくさんの雨を降らせます。暴風雨の中で育つ木々は特有のたくましさを持ち、生命力のにおいたちのようなものすら感じさせます。頻繁に台風の襲来する三重県の伊勢神宮などを訪れると、この命の燃え立ちのようなものを木々の姿から体感することができます。これは葉が薄いためにたくさんの光を通し、明るく優しい空間を作り出してくれる日本海側のブナ帯などとの著しい違いです。

 日本列島の中腹に位置する巨大な山岳帯である日本アルプスはこの両者の違いもが合わさる位置にあり、それぞれに適合した樹木が混交しています。このことも山容の彩りの複雑さを強くしています。

 これらの気候の豊富さ、樹木の豊富さが、生物の多様性をもたらしています。例えば木の種類が豊富なことでそれに見合ったたくさんの種子=ドングリが大地に落ちます。これをたくさんの生き物が利用しています。ネズミなどの小動物からしかや熊までたくさんの動物が多種多様のどんぐりの恩恵を受けている。

 また400種類を超える蝶やがそれぞれのドングリに卵を産みつけ、孵化に使っています。種類が豊富であり、高度や気候帯で違った種子が散布されることにより、これを利用する生き物の種類も豊富になります。こうして実に複雑な生態系が生み出されています。

 さらにこれだけ降水量が多いこの国を豊富な木々がたくさんの水を山に湛えてくれることで水の穏やかな流れが作り出されている。そのことが私たち人間の里の生活をも支え続け来ているのです。

 リニア新幹線は、こうした私たちの山河の豊かさ、素晴しさ、ありがたさを破壊するものであり、その自然への畏敬を失ったあり方をこそ、僕はもっとも批判しなければいけないと思います。

 

 同時にこの美しい山河はけして太古よりそのままで受け継がれてきたものではありません。日本では古来より常に営々と植林が続けられてきた。この国の祖先たちは、山々を守る中でこそ私たちの生活があることに古くからきづき、山と森を大事にしてきたのです。これらが山岳信仰などとして現代にも受け継がれています。

 さらに戦後の歴史を見るならば、このような植林の習慣が山里の人々に受け継がれ、山と森を守る努力の連なりの中で、今の私たちの里の生活の安定があることを知る必要があります。

 今、日本の森林率は67%です。世界でダントツの森林率と森林面積ですが、第二次世界大戦の直後を見てみると、戦争のための物資調達で森林面積が50%近くまで落ちていた事が分かります。

 そうなるとどうなるか。世界有数の降水量を誇るこの国で山が荒廃すれば降り注いだ雨は急峻な山々を駆け下りてしまい、必ず下流に大規模な洪水をもたらします。事実、戦後日本では被爆から6週間あまりたって広島、長崎を襲った枕崎台風による大水害、伊勢湾台風による大洪水等、大変な水害が頻発していました。山が乱伐によって荒れ果てていて、保水力が低下してしまったため、山々の表面に降った水がそのまま麓の人々を襲ったのです。

 

 こうした状態を前に、山里の人々は永続的に植林を行ってきました。せっせと山を元に戻そうとしてきたのです。そのために破局的な洪水はだんだんに少なくなり、里の穏やかな生活が戻ってきました。いやそれだけではありません。その後の高度経済成長を支える豊富で安定的な水の供給も、山が安定性を取り戻すなかでしか絶対に実現できない事でした。工業は膨大な水を必要とするものだからです。

 

 繰り返しますが、日本アルプスはこれほどに豊かで美しい日本の山河の中でももっとも変化に富んだ複雑な山容、樹木や生物の豊かな分布を誇るところです。この国に住まう人々、いや世界中から訪れる人々にとっての大事な自然遺産です。

 リニア新幹線はこの世界中の人々がうらやむほどの宝物を自らつぶしてしまうあまりに愚かな計画です。それがモラルを欠いた一部の人々によって押し進められようとしているのです。どうしてこの計画をこのままでおくことができるでしょうか。

 

 私たちは山河に感謝し、かつこの山河を私たちに残してくれた人々、先人から伝えられてきた努力と知恵の総体にこそ感謝し、謙虚な気持ちで遺産を受け取り、それが借り物であって次世代に必ず受け継がなければならないことにこそ目覚め、日本アルプスを、日本列島の美しい山々と森を守っていかなければなりません。そのための声がここ大鹿村から響いていって欲しい、多くの人々に届いて欲しいと僕は思うのです。

 

コメント (2)
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