明日に向けて

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明日に向けて(1792)感染症対策を柔軟に変えることが医療崩壊を防ぐ大きなポイント-新型コロナの影響を民主主義的に越えるために(9)

2020年04月11日 13時00分00秒 | 明日に向けて(1701~1900)

守田です(20200411 13:00 0413 07:30改訂)

● 医療を崩壊させまいと奮闘している医療者の嘆きから・・・

前回の続きです。

僕が感染症対策を柔軟に変える必要性に気が付いたのは、ある医療者がネットに投稿した嘆きからでした。「みなさん、医療崩壊はもう始まっています。もし私が感染したら医療ができなくなります。その分、助けられる命が助けられなくなる。悲しい」と。
胸がかきむしられるような思いでした。そうです。例えばいま「台数が足りないのでは?」と懸念されている人工呼吸器や、人工心肺=ECMOなども、実は扱いが難しい。熟練したドクターが隔離されてしまったら、台数が足りても力を発揮できなくなります。
でもジョンズ・ホプキンス大学の論文を読んでいたので「待てよ・・・」と思い直しました。この場合、医療ができなくなるのは本来のウイルスの力ではない。医師が倒れたからではないからです。それどころか多くの方は元気なまま隔離されるのです。

同じように、医療以外の場でも感染者が出たら、濃厚接触者のすべてを自主隔離においていく。そのことでシステムが停まり、困難が拡大しています。でもそれは人間の側が作った取り決めですから、もっと柔軟にアジャストすれば良いのではないか?
実は強いられた形でですが、日本でもすでに一部でそれが始まっています。ホテルを無症状・軽症の感染者の隔離施設として使うことです。
感染症法19条・20条で、入院先は「感染症法指定医療機関」となっているので、本来、これは感染症法に反します。でも感染症病床の絶対数が足りないので、この変更はきわめて重要です。

東京都の4月9日の感染症病床の状況を示した図をご紹介しておきます。
いま患者数は1431人。ベッド数は1200床。これだけ見ると医療崩壊なのですが、よくみると軽症・中症等(無症状を含む)の方が1401人、重症者が30人なのです。
もちろん軽症・中症の方から悪化する方もおられますから、これが重症者の割合ではありません。しかし無症状ないし軽症で、若くて既往症もない方たちは、代替施設に移ってもらった方が合理的です。いまやっとそれが始まったのです。


NHK特設サイト「新型コロナウイルス」より

これまた新型コロナウイルスが、SARS(重症急性呼吸器症候群)ほどには致死率が高くないからできることです。そうでなければホテル使用はあまりに危険すぎて、選択肢に入りにくい。でも新型コロナウイルス対策でなら合理的だと思うのです。
ただし現場ではいろいろな懸念も表明されているようです。何せ新たな試みです。ホテルでの感染症対策も難しいし、重症化した場合に迅速に搬送できるのかなど、クリアしなければいけないことはたくさんあるのでしょう。
それでも、このような柔軟な対応をもっと広げて、感染症対応をアジャストし、ある意味でもう少しガードをさげれば、医療現場も私たちももう少し余裕が増えて、その分、医療崩壊を食い止めることにもつながるのではないでしょうか。


PCR検査を増やす危険性とFETP(フィジカル・エピデミック・トレーニング・プログラム)

この観点から、この間のホットな話題も整理できます。というのは僕は当初、この病は致死率が高くないし、19歳未満はほとんど重症化しないので、安倍首相による小中高の一斉休校に反対しました。
しかしその後、もっとも懸念されるのは医療パニックによる崩壊であり、医療が機能していれば助けられる命、重症化する可能性のより高い、高齢者や既往症の方たちを守れると考えて、若い人々に行動の自制を呼びかける専門家会議の提言を支持しました。

一方で、多くの感染症医が、PCR検査の拡大には問題が多いと訴えていることも支持してきました。僕も感染症病床が当時は全国で1,758床とまったく少ないことを知っていたからです。そこに8割の無症状・軽症者を入れると必要な病床がなくなってしまう。
もちろんこれだけでは、町中に存在している感染者を見つけられないことになる。それで良いのかという批判が出続けました。
しかし僕はこの点で、FETP(Field Epidemiology Training Program)を受けたクラスター班による、感染経路の追いかけによるクラスター潰しという、日本の医療界が採っている戦略に共感していました。医療界は検査を感染症対策の軸としてなかったのです。

戦略なしに検査を拡大するのではなく、感染経路を追いかけ、クラスター発生現場をつかまえて、そこを封じていく。
つまり社会活動のすべてを止めてしまうのではなく、クラスターの発生しやすい場を特定し、そこからの発生をおさえていく。それで出されたのは「3つの密(密閉空間・密接場所・密接空間)」を避けようとの戦略です。
FETPはもともとアメリカで開発されたプログラムで、アジアでは韓国・中国・台湾・シンガポール・日本がこれを行っており、アジア各国はネットワークを形成して、情報共有も行っているそうです。

「FETP」をご存じですか? 日経メディカル
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/series/kansen-j/201004/514877.html


2009年11月にソウルで行われたFETPネットワークの学術集会 日経メディカルより


検査拡大とともにイタリアは医療崩壊を招いてしまった

同時に僕がPCR検査の拡大慎重論を支持したのは、この感染症は、誰が罹っているか分からないからこそ、不安を拡大させるので、検査を拡大すると病院に人が押し寄せ、かえって感染が拡大してしまう面が強くあることです。
実際に各国で病院が、巨大なクラスターになってしまいました。例えばイタリアは陽性者が14万人を越えていますが、なんとそのうち医療関係者の感染者が、1万人にものぼっている。これでは医療はとても持ちません。
イタリアの医療が劣っていたからではないのです。事態の深刻さが見えてきた時、病院に検査を求める人々が殺到し、そこで感染拡大が起こって、医療者も次々と感染してしまいました。しかも病床が軽症者で埋まり、医療崩壊が起こったのでした。

この点を日経新聞が、以下のように伝えています。
「感染者が急増した理由に挙がるのが医療現場の混乱だ。イタリアは、これまでに新型コロナの検査を5万4千件以上してきた。感染者を確定させる狙いだったが、軽症の患者も徹底的に検査したため、病床が満杯に。医師や看護師の不足に拍車がかかり、感染が一気に広がった可能性がある。
米ブルームバーグ通信は世界保健機関(WHO)関係者の話として「検査をやり過ぎて害を及ぼしたようにみえる」と伝えた。無症状の人は自力で回復できた可能性があると指摘した」

イタリア、医療現場混乱で感染急増か 全土で移動制限
日経新聞 2020/3/10 21:52
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO56642800Q0A310C2910M00/

ここから分かるのは、イタリアが感染症病床をどうするのかという点をアジャストしないままに、検査を増やしてしまったことが苦境を呼んでしまったことです。
軽症者が押し寄せてしまい、重症者が見れなくなる。ホテルなどの代替施設などが作られないまま、混乱が続いてしまった・・・。


なおイタリアの悲劇を作りだしたのは、新自由主義のもとでの「医療費削減政策」によって、病院や診療所の統廃合が進められてきたためでもありました。ここ数年間で760もの医療施設が無くなってしまっていたのです。
これに対して日本でも、保健所の統廃合が進められ、だからこそPCR検査が、医師が欲してもできないケースが相次ぎましたが、病院全体では、小泉政権から始まった医療削減政策に本当によく抗ってきました。
もちろん削減されてしまったものもたくさんあります。人工呼吸器やそれを扱う熟練のドクターが減ってしまった。でもそんな中で日本の医療者たちは、社会的共通資本としての医療の根幹を、新自由主義の猛攻から懸命に守りぬいてきたのです。

だからこそ日本の医療界をもっと信頼し、もっとみんなで支えようと訴えたいのです。

続く

***

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#新型コロナウイルス #パンデミック #FETP #イタリア  @安倍晋三

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