明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1390)書評『制定しよう 放射能汚染防止法』-1(6月25日は岡山市へ)

2017年06月09日 23時30分00秒 | 明日に向けて(1300~1500)
守田です(20170609 23:30) 
 
またしてもとんでもない被曝事故が起こりました。6日に起こった日本原子力開発研究機構大洗研究開発センターでのプルトニウム239の被曝事故です。
しかも1人の男性職員は肺に2万2千ベクレルもの被曝を受けたと計測されました。ここから全身に36万ベクレルものプルトニウム239が取り込まれたと推測されています。
ここから論じるべきことはたくさんありますが、一つの大きな課題はこの国の放射性物質の管理があまりにも杜撰になっていることです。
なぜなのか、何を正すべきなのかと考えた時に、考えるべきなのは、そもそも福島第一原発の事故以降、膨大に漏れ出した放射性物質のまともな管理がなされてきていないことです。

この事態を捉え返し、是正していくベき道を探るために、この間、友人たちとともに京都市内で「放射性廃棄物拡散問題学習研究会」を開催してきました。
8回に及ぶ会合の中で、放射性物質がそもそも法的にいかに扱われてきたのかについても学んできましたが、前回(5月28日)にはこうした事態の抜本的な解決に向けた「放射能汚染防止法」制定に向けた動きを取り上げました。
これは6月25日に岡山市で「『放射能汚染防止法』を制定しようHKB47 市民勉強会 IN岡山2017」が開催されることも意識してのものです。
僕自身、この企画で「放射能汚染防止法制定を目指す戦略」と題されたパネルディスカッションにも参加させていただきます。
今回は5月28日の学習研究会で取り上げた、この法律の制定運動を起こされていて、岡山でのディスカッションにも参加される山本行雄弁護士の著書を取り上げます。

本のタイトルはずばり『制定しよう 放射能汚染防止法』。星雲社から発行されています。
この本を読みだしてすぐに「なるほど」と思わされるのは、原発の再稼働に向けて当然にも問われてしかるべき汚染対策が抜けていないか?一億人が勘違いしていないか?と山本弁護士が指摘されていることです。
原発の再稼働に向けて問われて来たのは一つに「安全審査」です。国は原子力規制委員会を設け、同委員会が設定した「新規性基準」を安全審査の柱としています。
これまでも繰り返し述べて来たように、新規制基準は「過酷事故」が起こりうることを前提にしたもので、到底、認められるものではありませんし、規制委員会自身が再稼働への許認可にあたって「新規性基準への適合性を見ているだけで安全だとは申し上げない」とすら述べています。
しかしそれでも100歩譲って言えば、この新規性基準は安全審査を巡る論議の一つの場となっているとは言えます。
 
次に問題になるのは防災訓練=避難の準備です。これに向けても原子力規制委員会が「原子力災害対策指針」というひな形を出し、原発から30キロ県内の自治体に避難計画の作成が義務づけられました。
しかし作られはするけれども、誰も審査せず、責任があいまいになっていると同時に、多くの計画があまりに実効性に乏しく、机上の空論にとどまっています。
僕自身はこの点を踏まえて、原発から30キロ圏外の篠山市で、市民の方達とともに独自の発想に基づく対策を積み重ねて安定ヨウ素剤の事前配布などを実現してきました。
「原子力防災で絶対安全を確保できる道などない。せめて少しでも被曝を避ける減災の観点で望むしかない。その場合、最も有効なのは事故の際にとっとと逃げる準備を重ねることだ」と言うのが篠山市の基本方針です。
しかし多くの自治体は依然、空論にとどまっており、さまざまな問題が山積していますが、あえてここでも100歩譲って言えば、防災訓練=避難計画もまた人々の論議の対象にはなってきています。
 
ところがもう一つがすっぽりと抜け落ちている。それが放射能汚染対策なのです。このことを山本さんは「一億人の勘違い」と述べられている。少し引用します。
「総理大臣が原子力防災会議の議長として、過酷事故を想定した防災訓練を行っているのです。事故を想定するなら被害を想定するのが当然です。
 総理大臣を筆頭に、防災訓練をすれば、その後の汚染等ないかのように振る舞っています。
 なぜ「被害」は想定しないのだろうか。なぜ被害を想定した法律を整備し対策を立てないのだろうか、法整備も無く対策も無いのに再稼働してよいのだろうか、当然すぎる疑問です。」
「総理大臣を筆頭とする幼稚な勘違い‥大多数の人々も疑問に思わない‥一億総勘違い状態ではないでしょうか」(同書p16)
 
素晴しい卓見です!目から鱗が落ちる思いがしたのは僕だけでしょうか。
確かに安全対策も防災対策も、不十分極まるものでしかないにしろ、まだしも論議があることに対して、三つ目にくるべき「公害対策」については論議の場すら定まっていません。
どうしてこうなってしまっているのか。日本には公害を取り締まるための法律として「環境基本法」があります。1960〜70年代ぐらいに「公害国会」と言われるほど、議会で公害対策が熱く論議された時期があって、民衆の熱意のもとに公害を防止する法律が次々とできたのです。
ところがこのときできた全ての法律に「放射性物質については原子力基本法その他の法律の定めるところによる」と書かれてしまったのでした。
そしてその「原子力基本法」では具体的な規制など書かれませんでした。このため原子力施設からの放射能汚染について法的な空白が生まれてしまったのでした。
 
山本さんはそこで「環境基本法」と「原子力基本法」の抜本的な違いを指摘しています。前者は「公害国会」などで作られた旧「公害対策基本法」を受け継いだもので、産業活動がもたらした公害被害から、人や環境を守るため、産業を規制するものとして生まれました。
「原子力基本法」は日本が国策として原発を導入した際に、原子力の利用による産業振興を図る目的で作られたもので、もともと規制法ではありません。山本さんはこれを「国民の力で作った法律と国策で作った法律」と指摘しています。
このため日本には放射性物質による公害を法的に規制してこれませんでしたが、福島原発事故以降、とても大きな変化が起きました。2012年6月27日に環境基本法13条の放射性物質適用除外規定が削除されたのです。
 
この意義はとてつもなく大きい。このことで国は、公害原因物質として位置づけられた放射性物質に対し、環境基本法が要求する義務や責任を果たさなければならなくなったのですから。
にも関わらず、国は、官僚達は、この作業をさぼっている。ならば民衆運動でこの作業をやらせよう。すでに法的に義務づけられている放射能公害への対処を国にやらせようというのが「放射能汚染防止法」制定運動の基本的な主旨なのです。
山本さんはこのことには世界的な意義すらあることも高らかに指摘されています。
 
「福島第一原発事故を契機に、日本では、法制度の欠陥が露呈し、国会は、その抜本的見直しを決めました。これは、事故によって偶然発生した課題ではありません。原発導入以来、無いかのように扱われ、背後に押しやられ、潜在化してきた課題が、事故を契機に一挙に表面化したに過ぎません。
 放射能汚染に体する法の欠落という課題は、世界共通の課題です。それが日本で先行して現実化しました。地球上で最も危険な、プレートのひしめき合う地震列島に54基もの原発を建設し、一度に三基もの原子炉をメルトダウンさせたからです。
 世界に先行して深刻な放射能汚染問題に直面した日本が、世界にさきかげて法整備に取り組まなければならなくなったのは当然のことなのです。
 この法整備問題は、回避しようともしてもできない歴史の必然だったのです。」(同書p27)
 
続く
 
*****
 

「放射能汚染防止法」を制定しよう HKB47市民勉強会IN岡山2017

https://www.facebook.com/events/1344613755575421/?acontext=%7B%22ref%22%3A%2223%22%2C%22action_history%22%3A%22null%22%7D

 

大沼淳一氏講演会

「ばら撒かれる放射能の実態と危険性」

2017年6月25日(日)

14:00~18:00(開場13:30)

会場:岡山コンベンションセンター 407会議室(定員80名)

参加費:1000円(福島原発事故由来の避難・移住者の方は無料)

講師:大沼淳一氏(原子力市民委員会)

主催:「放射能汚染防止法」を制定する岡山の会

【プログラム】

14:00~14:30 報告会
「原発事故対策に関する自治体への「質問書」提出」
杉原宏喜氏(「おのみち-測定依頼所-」)

14:30~16:00 大沼淳一氏講演
「ばら撒かれる放射能の実態と危険性」

(休憩)

16:15~18:00 パネルディスカッション
「放射能汚染防止法制定を目指す戦略」

大沼淳一氏(原子力市民委員会)
山本行雄氏(弁護士)
満田夏花氏(FoE Japan)
守田敏也氏(フリーライター)
佐藤典子氏(「放射能汚染防止法」を制定する札幌市民の会)

18 :00~質疑応答
○「伊方原発運転差止広島裁判」原告団ご挨拶
○「ふくしまいせしまの会」上野正美さんご挨拶

18:30~20:00 交流会(会場で自由交流)

【資料】
「制定しよう 放射能汚染防止法」(山本行雄、星雲社)
「核廃棄物管理・処分政策のあり方」(原子力市民委員会)

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