へなへなとその場に座り込んでしまい、どっと疲れがでてきた。
“終わった…。勝てた、かてたぞ。ハハハ…。案外にかんたんじゃないか。
警察って言ったら、慌ててたじゃないか。
なにが押しかけるだ、いい加減なことを”
しかしとたんに、おおきな不安がおそってきた。
“ひょっとして…電話番号から住所をしらべられたら…”
“いや、そんなはずはない…さ。個人情報はうるさく規制が…”
“しかし…個人情報流失うんぬんと、しょっちゅうニュースで…”
あわててチラシに書かれている警察署に電話をかけた。
担当者のかなまえを告げると、しばらく待たされたあと、たぶん1分とかかっていないと思うのだが、10分にも20分にも感じられた。
1秒ずつうごく時計の長針が、やけにゆっくりな動きにみえた。
居ても立ってもいられぬ思いにかられたとき、「お待たせしました」と、声がみみにはいった。
「あ、あ、あの…」
「落ち着いてくださいよ。そうですね、まず深呼吸しましょう。
それからで結構です。さいしょは、お名前を伺いましょうか?」
フーハーと、大きく深呼吸をしたあとに
「はい、山本、と申します。じつは、先日、振り込め詐欺の実演を観た者なのですが…」と告げた。
「はい、分かりました。で、どうされました? 電話がかかってきましたか?」
「そうなんです、かかってきたんです、いま」
「大丈夫です、安心してくださいね。
どんな話でしたか? 相手は、男でしたか? 女性でしたか?
あ、ごめんなさい。ひとつひとつ聞きましょうか。
男か女か、教えてもらえますか」
「男です、おとこ。覚えのないことで、金銭を要求してきたんです。
わたしね、パソコンはやっていないんです。
インターネットは知っていますけれど、電話もありますよ。
でも、使い方が分からないんです。
あ、いや、メールはしているんです。
でも、パソコンではなくて、その…分かりますか?
わたしの言っていることは…」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます