昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十四)

2024-04-28 08:00:36 | 物語り

 その普通車にしてみれば、彼に煽られていると感じたのかもしれない。
軽自動車ごときにという思いから、ブレーキを踏むことなく減速したのかもしれない。
それともアクセルを踏み込む力が、単に弱まっただけかもしれない。
あわてた彼を後目に、その車は力強く坂道を駆け上がっていった。

 岩田との間で口論になったことがある。
二台前の車に意識を持つことに対して、彼は防衛運転だと言い張った。
突然のトラブルを少しでも早く察知するためだと言い張った。
しかし岩田に言わせれば、車間距離をしっかりとっていれば何の問題もないということになる。
岩田にしてみれば「危ないからやめようよ」ということなるのだが、彼は納得しないでいた。

「目先だけに気を取られるのはだめだ。さきを見据えるように」
 部長がいつも言ってるじゃないかと、強弁した。
「でもそれはちょっと違う話じゃないのかな。
なんて言うか、ビジネスというか、大きく言えば人生に関してのことじゃないのかな」
 言い負かされかけた彼は、「防衛運転なんだよ、とにかく」と話を打ち切った。

 ホッとため息を吐く彼に、容赦ない罵声が浴びせられた。
「こらあ! お嫁に行けなくする気か。それとも、婿養子に来るか?」
「ごめんなさい。それだけは、ごかんべんを」
「それだけは、って、どういう意味なの」と、後ろをふり返り「あなた一途ですって」と、真理子に声をかけた。

顔を赤らめてうつむく真理子をバックミラーで確認した彼もまた(絶妙のお言葉。姉御肌の貴子さん、ほんとにありがとうございます)と、顔を赤くした。
貴子の思いとしては、彼への応援というよりは真理子に彼を印象づけることが切実なことだった。
なんとか、ふたりでのデートを楽しむ関係にまで発展させたかった。



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