昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~蒼い殺意~ 至福のとき(一)

2025-01-14 21:55:12 | 物語り

いっきに読み上げた女学生は、あまりに彼らしいその内容に安堵感を抱きつつも 
“もしかして私のことも……”と、淋しさを感じた。

溜息をつく女学生。
彼が声をかける。 

「俺はそんな恋が好きなんだ。
淡い恋心を持ったままで一生を過ごしたいとも思うんだ。
おかしいかな?」 

「わかるわ……」
幼い頃の想い出に思いを馳せながら、彼の肩に体を委ねる女学生。 

「大人になるのって、嫌ね。
恋愛も多少の打算が割り込むのよね、駆け引きとか。
でも、私たちは否応なしに大人になっていくのよ。
うぅ~ん。
ならなくちゃだめなのよ。」
 
彼は自分の心が和み始めていることに気づき、驚いた。
暗くなった部屋で、殆ど見えない女学生の表情をはっきりと感じた。
優しかった頃の、母の姿を。 

「ねえ……」
肩に寄りかかっている女学生に気付いた、彼。
暖かさが心地よく伝わってきた。
 
「ねえ、何かレコードをかけてくれる
何でもいいの、あなたの好きなもので。」
 
「あゝ……」
気だるく答えながら、立ち上がって部屋に灯りをつけた。 

「いや、柔らかい灯りににして。」
鋭い語気の中に甘える声。
胸の熱さが滾るのを、禁じ得ない彼がいた。 

激しいビートの、ロック音楽(Led Zeppelin)をかける。 
「だめ!」と、子供をたしなめるように女学生が叱る。
FM放送に切り替えると、ストリングスの小気味よい音色が流れ始めた。

女学生は満足気に頷いた。
そして灯りが豆電球に切り替えられた。 



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