昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (十八)

2025-01-18 08:00:01 | 物語り

 嘘をついてしまった。調べればすぐにわかるようなうそを。
「あなたは、うそつきよ! 
ほんとのことなんて、ぜったいに話さない人なんだから」
 わかれた妻の、離婚届にはんこを押したときの、捨てゼリフを思いだした。
 落ち着こうとするのだけれども、どうしても早口になり、話もあちこちに飛んで支離滅裂になってしまう。
「大丈夫ですよ、山本さん。パソコンでのインターネットはしていない。
携帯電話でのメールぐらいのものだ、そういうことですね?」
 さすがに警察だ、言わんとすることをすぐに理解してくれた。

「けさ突然に電話がかかりまして、男からでした。
『田中さん、金を払ってくれ』とです。
えーっと、なんだったか…そうそうアダルトを観たとかなんとか。
名前もちがいますし、先ほど言いましたとおり、いまはインターネットはやっておりませんし。
そしたら携帯電話でみたんだという始末で。
警察を呼ぶぞといいましたら、警察とはつながりがあるから通報してもムダだなんて言いだしまして。
でも、チラシを見て、思い切ってかけたようなわけでして。
おわかりですか、こんなことで」

 いっきに話したわたしに対し、とつぜんにケタケタと笑い声が耳に飛び込んできた。
かわいた笑い声で、あきらかに、わたしを落ち着かせようとするしている。
もう一度、フーハーと深呼吸をしてみた。
「いやいや、失礼。それは賢明でした。
お名前をまちがえてましたか。山本さんだと名乗られなかったんですね。
それで結構ですよ。だいじょうぶ、りっぱな対応でした」

“待てまて。名前は…言わなかったはずだけれど…”
 そんなわたしの不安を見すかしたように、
「もしもし、山本さん。
万がいちにですね、お名前が相手に分かってしまったところで、だからなんだ! ということです。
ご心配はありませんよ、だいじょうぶです。



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