昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十四) 一

2013-07-15 13:52:36 | 小説
(一)

金屏風を背にして武蔵と小夜子が座り、小夜子の横に茂作が苦虫を噛み潰した表情でいる。
そして武蔵の横には、大婆が陣取っている。

二人に向かって右の列に、助役以下村役場の面々が座り、
左の列には、繁蔵以下の縁戚連と勢揃いだ。

あとの村人たちは、そこかしこに十人程度が集まり車座に席を構えている。
二十畳はあろうかという部屋をふた部屋、襖を取り外してひとつの部屋として使っている。

炊事場である土間で、竹田家本家分家の女子衆たち総勢十二人が忙しく立ち回っている。
武蔵が連れてきた料理人たちが用意する料理を、あちらへこちらへと運びまわる。

「正月と盆が同時に来たみたいじゃ。あぁ、忙しい、忙しい。」
皆口々に愚痴をこぼし合いながらも、大婆の命には逆らえない。

いや実のところは、男どもには内緒で女衆たちには武蔵から届けられていた。
スカーフとハンカチのセットが、先々夜届けられた。

更には、明日一日が休息日に当てられている。
お正月とお盆に、一日だけの里帰りが認められているだけなのだ。

「明日は、なーんもせんでええ。
畑仕事もおさんどんも休みじゃ。

町に出かけるも良し、ここでおしゃべりするも良し。

好きにしてええ。
男どもは、茶漬けでも喰えばええ。」


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