昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ごめんね…… (一)

2017-12-09 18:52:40 | 小説
うだるような猛暑に襲われた今年の夏も、お盆の休みに入った途端に、その力を衰えさせ始めた。
日中の暑さは変わらぬものの、陽が落ちてからの気温は凌ぎ易くなってきた。
通りを吹き抜ける風にも、涼感が感じられる。

 G市の中心部にあるK公園の敷地内での祭りに彼女を誘った。
神社の境内と隣り合わせになった公園の中には、数え切れないほどの夜店が並んでいる。
その店々から、子供の中に混じって大人の歓声も聞こえてくる。
その中でも射的の店は、黒山のような人だかりだった。

「お父さん。あれだよ、あれだって。ウルトラマンだって! 
どこ、ねらってるの! おかしなんて、ぼく、いらないよ。
お父さんのへたくそ!」

「ばーか! お父さんは上手なの。
あんな大きい物なんか、当たっても落ちないのよ。
だから落ちそうな物を狙ってるんじゃないの。
ほんと、バカなんだから」

「バカバカって、言うな! おネエだって、頭良くないだろうが」
「ふん。あんたよりは、ましよ」
「ちょっと、二人とも。もう止めなさいって。
笑ってらっしゃるでしょ、みなさんが」

 母親が止めに入らなければ、いつまでも続いていただろう他愛もない口げんかだ。
私と連れの彼女は、顔を見合わせてくすりと笑った。
いや、私たちだけではない。取り囲んで見守る人たちもだ。

 しかし当の父親だけは、真剣な顔をして打ち続けている。
今まさに、男の子が欲しがるウルトラマン人形に向けて、何発も何発もだ。
「やったぞ! 悟、落としたぞ。どうだ、凄いだろ!」

 苦笑いの店主から受け取る際の子どもの笑顔は、大きく鼻を膨らませて得意満面だった。
「あなた、いくら使ったの。随分と使ったんじゃない? ひょっとして買ったほうが安いんじゃないの」

 半ば詰るような母親の言葉に
「まあな。しかし父親の威厳が、この程度で買えれば安いもんだ。
見ろよ、悟の喜ぶ顔を。店で買っても、こんなには喜ばないぞ」
と、喜色満面に答えていた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿