昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね……(問屋街 三)

2023-05-07 08:00:34 | 物語り

 益田商店の店先には道路上にはみ出したステンレス製のハンガーラックが所せましとならべられている。
ひとつのハンガーラックには二十枚ほどの洋服が種類別に整然と掛けられている。
その一つひとつのハンガーラックに番号が割り振られている。
店の中にあるハンガーラックにつり下げられたハンガーには、Yー72とあった。
アルファベット26文字にそれぞれ二桁の数字が割り当てられているが、それで何種類になるのか、計算するのもいやになるぐらいの製品数ということになる。
そしてその一枚いちまいにプラスチック製ハンガーとカバー袋が必要となるわけだ。
それをぼくが配達をしている。そしてそれで給料をいただけるわけだ。
「ありがたやありがたや」。念仏のように唱えながら配達しなくちゃな。

 間口が五間ほどの店に入ると、中央部にマネキン人形が三列に並べてあり、この秋用の新製品がそれぞれに着せられている。
ワンピースとスーツと、もうひとつはブラウスにスカートの組み合わせものだ。
紫っぽい藤色というのかな? 好きな色なんだよな。
ふわっとした上半身で、腰あたりがぐっと絞ってある上品なつくりだということは、門外漢のぼくでもなんとなく分かる。
益田商店では、体にぴったりとフィットする服ではなく、こういったゆったり系をメインにしているようだ。

左右の壁にはだいたい四十センチ四方の棚が五段添えつけられている。
その棚にもそれぞれに番号が割りふられている。
店先のハンガーと連動しているのだろう、アルファベット二桁の数字が書かれたラベルが貼り付けられている。
キチンと(当たり前の話だけど)たたまれて、何枚ぐらいかな、重ねられている。
しっかり数えたわけではないが、5枚ぐらいだろうか。
「少量多品種がモットーの会社なんだ」と、これも担当営業マンに聞かされた。
ぼくにはどうでも良いことなのに、やたらと説明してくるのはなんでだ?

「まいど!」
 店にはいるときには、いつも大声で怒鳴るように叫んでいる。
そうでないと、奥の事務室にまで聞こえないのだ。
でいつも「ああ、ご苦労さん」と、部長が仏頂面で答えてくれる。でも声はやさしい。
納入物によって置き場所が違う。
段ボールや化粧箱に結束バンドは店先に置き、袋類はその日によって店先だったり事務室だったりする。

 型紙であるパターンやトレース紙などはいつも「ていねいに扱えよ」と先輩社員に念を押される代物だ。
配達物としてはありがたくないものだが、二階に上がることができるということで嬉しくはある。
今日もまた、無言のままあごをしゃくり上げる部長で、二階へはこべと指示された。



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