なおも問いただそうとする孝男に
「認知症老人の、ちょっとしたイタズラですって。度が過ぎただけのことなんですよ」
と、大したことはないと強調する道子だが、次男が激しくかみついた。
「じょうだんじゃねえ! あいつは、ほのかを泣かせたんだ。
許せねえ。今度やったら、○してやる。ぜってえ○してやる」
次男の据わった目は、はげしい殺意にも似たいろを秘めている。
「ちょっと待ちなさい。イタズラとは、どういうことだ。
ほのかはどうしているんだ。警察にいると聞いて飛んできたんだぞ」
「まあまあ、それはとんだ誤解でしたわね」
素知らぬ顔で、道子は受けながす。
次男が警察にといっても、孝男が来ることはない。
しかしほのかがいるとなれば、なにを置いても駆けつける孝男だと知る道子だ。
ひと言「ほのかが泣いています」と漏らしたことばで、孝男は飛んできた。
人通りの多い往来では大きい声を出すことも出来ず、また道子を叱責することもできない。
イラつく孝男は、唇を真いちもんじに結んでタクシーに乗り込んだ。
分かってはいることだったが裏切られたという思いがわき上がった次男は、きびすを返して脱兎のごとくに走りさった。
あわてて引き止めようとする道子に
「ほっておけ、あんな奴のことは。それより、ほのかだ」と、車内にひきこんだ。
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