(一)
久しぶりに車中から見る田畑、そして車中に流れ込む雑多な匂い。
懐かしさを覚える前に、嫌悪感を覚える小夜子だった。
「どうした?」
駅を降りてタクシーに乗り込んでから寡黙になった小夜子。
心なしか、顔も青ざめている。
「酔ったのか? 道が悪いからな。
運転手さん、停めてくれ。
外で空気を吸わせよう。」
「いや! このまま行って!」
小夜子の金切り声が車中に響いた。
「分かった、分かった。
それじゃこのまま行こう。
運転手さん、少し速度を落としてくれ。
ゆっくり走ってくれ。」
これほどに取り乱す小夜子を武蔵は知らない。
小夜子の金切り声など、初めて聞く。
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