昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十七)の二

2013-03-25 21:02:26 | 小説
(二)

今にも泣き出しそうな空の下、役場の前をタクシーがゆっくりと過ぎた。

追いかけるようにして
「助役さん、居るかの?」
と、慌てふためいて茂作翁の兄である繁蔵と若い男が入ってきた。

「はぁ。おられますが、ご用件は?」

「居ればいい。
おい、いくぞ!」
と、若い男を急き立てるようにして助役室に向かった。

「助役さん!」 

「な、何です、いきなり。
職員を通してもらわんと、まずいですがの。」

うず高く積まれた書類の陰から顔を出して、苦言を呈す助役。

「そんなことはどうでもいい! 
びっくりじゃ、びっくりじゃ!」

「どうでもいい、ってそうはいきませんて。
ここは役場ですから、公私のけじめはキチンとしてもらわんと。」

なおもこだわる助役に、繁蔵の怒りが爆発した。

「あぁもう! 一大事ぞ、小夜子が帰ってきたんだよ。
この富男が見たらしい。」


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