武蔵の元に、百貨店からの手紙が届いた。
普段ならば気にもとめずに武蔵に渡すのだが、武蔵の名前と共に、小夜子様と宛名書きしてある。
わざわざ連名にしていることから、これは自分宛だと気付いて、すぐに開封した。
季節の挨拶と共に、来月にファッションショーを開くとあった。
最上席を用意したので、是非にも小夜子に来て欲しいとある。
デザイナーとして、小夜子にとって運命の扉を開けてくれたマッケンジーの名があった。
しかしモデルたちの中にアナスターシアの名前がない。
怪訝に思いつつも、「御手洗小夜子様」という後付けの宛名が気になった。
差出人が企画部門・坂田とそして外商部門・高井の名前がある。
“タケゾーの仕業ね、まったくもう”。眉間にしわを寄せつつも、悪い気はしない。
明日の午後には、アメリカ将校のガーデンパーティに出席することになっている。
いよいよデビューを迎えるとあって、緊張感が高まっている。
武蔵の厳命で、着物姿での出席となっている。
二十歳の祝いに誂えた振袖姿を披露することになっている。
「小夜子、小夜子さま、小夜子弁天さま」と、武蔵に誉めそやされて誂えたものだ。
日本髪に結うべく、美容室「千夜子」に入った。
小さな美容室ではあったが最新のパーマネント機があるということで評判の店だ。
英語学校で話題に上ったことから、ひと月ほど前に立ち寄ってみた。
「小夜子さん、お久し振りですね」
「あら、覚えていてくださったの? まだ二回目なのに」
椅子に座るなり、店主の千夜子が小夜子の髪を慈しみながら言う。
「そりゃもう。わすれられませんよ、このおぐしは。ほんとにステキなおぐしで」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいです」
“当たり前よね。アメリカの最高級シャンプーで洗ってるんですもの。リンスも忘れずにね”
「とんでもない! お世辞じゃありませんよ。どんなことをしてらっしゃるんです?
あたしに真似できることなら、教えて頂きたいわ」
「特別なことはしてませんけど……」。
一旦言葉を止め、首を傾げつつ“どうしょうかしら。シャンプーのこと、話していいかしら”と逡巡する。
「やっぱり、何かしてらっしゃるんですね?」
「してるんじゃなくて、使ってるんです。一般には出回っていない、アメリカ将校向けのシャンプーを」
驚きの表情を見せて、千夜子の手が止まる。
「そんなものが手にお入りになるんですか?」
「まあねえ、主人がGHQに出入りしてるものですから」
つい、主人という言葉を使ってしまった。
「えっ! もう、ご結婚されてらっしゃる?」
「えっ? ええ、まあ」
「お幾つなんですか? 」
「年齢ですか、ええ、二十歳です」
何故言ってしまったのか、小夜子にも判然としない。
小夜子と武蔵の関係は、他人に説明できるものではない。
「そうですか、ご結婚されてる……」
「それが何か?」
“あたしが結婚してたらどうだと言うの?”
普段ならば気にもとめずに武蔵に渡すのだが、武蔵の名前と共に、小夜子様と宛名書きしてある。
わざわざ連名にしていることから、これは自分宛だと気付いて、すぐに開封した。
季節の挨拶と共に、来月にファッションショーを開くとあった。
最上席を用意したので、是非にも小夜子に来て欲しいとある。
デザイナーとして、小夜子にとって運命の扉を開けてくれたマッケンジーの名があった。
しかしモデルたちの中にアナスターシアの名前がない。
怪訝に思いつつも、「御手洗小夜子様」という後付けの宛名が気になった。
差出人が企画部門・坂田とそして外商部門・高井の名前がある。
“タケゾーの仕業ね、まったくもう”。眉間にしわを寄せつつも、悪い気はしない。
明日の午後には、アメリカ将校のガーデンパーティに出席することになっている。
いよいよデビューを迎えるとあって、緊張感が高まっている。
武蔵の厳命で、着物姿での出席となっている。
二十歳の祝いに誂えた振袖姿を披露することになっている。
「小夜子、小夜子さま、小夜子弁天さま」と、武蔵に誉めそやされて誂えたものだ。
日本髪に結うべく、美容室「千夜子」に入った。
小さな美容室ではあったが最新のパーマネント機があるということで評判の店だ。
英語学校で話題に上ったことから、ひと月ほど前に立ち寄ってみた。
「小夜子さん、お久し振りですね」
「あら、覚えていてくださったの? まだ二回目なのに」
椅子に座るなり、店主の千夜子が小夜子の髪を慈しみながら言う。
「そりゃもう。わすれられませんよ、このおぐしは。ほんとにステキなおぐしで」
「ありがとう、お世辞でも嬉しいです」
“当たり前よね。アメリカの最高級シャンプーで洗ってるんですもの。リンスも忘れずにね”
「とんでもない! お世辞じゃありませんよ。どんなことをしてらっしゃるんです?
あたしに真似できることなら、教えて頂きたいわ」
「特別なことはしてませんけど……」。
一旦言葉を止め、首を傾げつつ“どうしょうかしら。シャンプーのこと、話していいかしら”と逡巡する。
「やっぱり、何かしてらっしゃるんですね?」
「してるんじゃなくて、使ってるんです。一般には出回っていない、アメリカ将校向けのシャンプーを」
驚きの表情を見せて、千夜子の手が止まる。
「そんなものが手にお入りになるんですか?」
「まあねえ、主人がGHQに出入りしてるものですから」
つい、主人という言葉を使ってしまった。
「えっ! もう、ご結婚されてらっしゃる?」
「えっ? ええ、まあ」
「お幾つなんですか? 」
「年齢ですか、ええ、二十歳です」
何故言ってしまったのか、小夜子にも判然としない。
小夜子と武蔵の関係は、他人に説明できるものではない。
「そうですか、ご結婚されてる……」
「それが何か?」
“あたしが結婚してたらどうだと言うの?”
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