昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百六十五)

2025-03-04 08:00:23 | 物語り

 週に1回のペースで、経営戦略室にて[組織経営の何たるか]という初歩の経済学勉強会が開かれることになった。
講師は真理恵がつとめ、第2土曜日には真理恵の父親であり三友銀行銀座支店長の佐多が、極秘で特別講師としてまねかれていた。
その場には、服部・山田・徳子、そして社長である五平も出席することになった。
接待の多い日ではあるが、できるだけその日を外すようにして出席していた。
〝はやくも尻に敷かれたか〟などと社の内外から陰口をたたかれつつも、毎回参加の五平だった。
〝御手洗社長ならば女ごときに……〟という声もでた。
しかしこんな声も追加して聞かれたことだろう。
〝もっとも小夜子奥さんのご命令とあれば従うかな?〟。
そして話に興じる全員が笑いがおになり、次回の接待の場ではその話で場がもりあがる。

 五平にもその話はとどいている。しかしまったく意に介さず、その話題がでても、
「まいりますよ、まったく。あのご出身ですからね」
と、いかにも卑屈な態度をみせつつ、腹の中で
〝見てろよ、そのうちに差ができちまうぞ〟と、腹の中でせせら笑っている。
そしてついでに、「お姫さまでもご出席いただければ、お花畑になるんでしょうがな」と、笑いをとっている。
武蔵とはちがった手法で、相手の裏をかいている。

 第2土曜日の佐多の出席には重大な理由があった。
武蔵の生存中から複式簿記がとりいれられているが、会計事務所での処理となっている。かねてから非効率だということで社内での会計処理が急がれてはるいる。
でそれが会計責任者である徳子に白羽の矢が立っているのだが、尋常小学校どまりの徳子では荷がおもく、なかなかすすまない。
武蔵・小夜子時代ではそれも良かったのだが、五平が社長就任するにいたり真理恵からの攻撃がはじまった。

 第2土曜日に佐多が来るのは、徳子のつくる単式簿記を月末に受け取り、複式処理された簿記が会計事務所からとどくのに1週間ほどかかるからだった。
それまでは半年にいちどのペースだったものをいきなり月に1回の提出というのは、会計事務所にとって多大の負担ではあったが佐多の登場でやむなくとなった。
 イヤミなどではなく1日でもはやくできれば毎週でも、その複式簿記で確認したい項目が少なくない。
スピード経営をめざす佐多や真理恵にとって、徳子の存在は邪魔だった。
簿記の問題だけではなく、そのお局然とした存在が障害になることもあった。 

 会計だけでなく人事も総務課長である徳子の決済がなければ、金員の出金はもちろん移動すらままならない。
新人の入社など、徳子がくびを縦にふらなければおぼつかない。
「社長命令よ」とつげても馬耳東風で、意に介さない。
服部・竹田のふたりが進言すれば「仕方ないわね」となるのだが、それでは即断即決に支障をきたす。



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