昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十九) 猛烈に感動しているんだから

2014-06-04 21:04:45 | 小説
(五)

「小夜子、小夜子。どうした、ボーっとして。
気分でも悪いのか? 久しぶりのキャバレーは、体に良くないか。
空気が悪いからな」

「気分が悪いですって! とんでもないわ。今あたし、猛烈に感動しているんだから」

「そうか、感動しているか。それじゃ感動している中、悪いんだがな。
課長さんに、ビールを注いでくれないか。
小夜子が注ぐビールは格別だ、なんて口を滑らせてしまったんでな」

武蔵に耳元で囁かれ、くすぐったさをこらえ切れない小夜子だ。吹き出しながら、
「いやあよ、そんなの。ただ座わっていればいいって、言ったじゃないの。
あたし、お酌なんていやよ」と、ぴしゃりと拒絶した。

「すまん、すまん。つい見栄を張っちまってな。
頼むよ、小夜子。大事な取り引き先の課長なんだよ。
ご機嫌をな、取っておきたいんだよ。
その代わり、小夜子の頼みを聞いてやるから」

手を合わせて拝みかねない風の武蔵に、
「どうしてもして欲しいの? しないと、会社に良くないの?」
と、悪戯っぽく尋ねてみる。
「あぁ、どうしてもだ」


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