昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十九) 梅子姉さんは、名指揮者ね

2014-06-03 21:00:07 | 小説
(四)

一見華やかな世界に見える水商売も、一皮剥けば崖っぷちを歩く女たちの世界なのだろう。
年齢の壁は、誰にとっても平等にやってくるものなのだから。

「こらこら。お客さんを放っぽらかして、なんだい! 
同窓会じゃないんだよ、この場は。

戦場(いくさば)なんだよ、この席は。
ほら、あんたたちはこの席じゃないだろうに。

ほら、ひばり、富士子。あんたらも、課長さんのお相手をして。
さとみ一人に任せて、なんだい!」

テキパキと女給たちを差配する梅子。
久しぶりに見る小夜子には、キラキラと輝いて見えた。

“梅子姉さんは、名指揮者ね。大勢の女給さんたちを、一時(いちどき)に差配しているのよね”

梅子の一挙手一投足を、じっと見つめる小夜子。
忙しなく体を動かして、店全体に目を光らせる梅子。
そしてそのくせ、今居る席での会話もキチンと受け答えをしている。

“そうよ、そうよ、きっと! 梅子さんて、きっと新しい女なのよ。
男に頼ることなく、男に媚びることなく、しっかりとやるべきことをやってらっしゃるもの。

あたしみたいな、ポッと田舎から出てきた小娘にも、キチンと気遣いしていただけたし。
見習わなくちゃ、あたしも。お姫さまなんて奉られて、好い気になってる場合じゃないわよ”


最新の画像もっと見る

コメントを投稿