昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十一) “いい線、いってるわ”

2015-03-17 08:25:09 | 小説
“いい線、いってるわ”
由香里にとっては、ボーイフレンド探しの方便であり、勉強をすることなどは考えていなかった。
あれこれとモーションをかける由香里だった。
しかし彼は、吉田の助言や早苗の経験からも、一線を画して厳しく接した。
成績が上がらなければ、即解雇されるのだ。
といって、厳しさだけではそっぽを向かれてしまう。

”まだ男の方が、ましか。初めに「ガツン!」とかませば、意外に温和しいもんだ”
半ば後悔しつつも、
”この娘で上手く行けば、この先は楽だろう”と、女子高生の好みそうな話題=恋愛=を時に持ち出しながら進むことにした。

しかし母親には、特に話題に気を付けた。
専業主婦の母親は外出の機会に恵まれず、近所付き合いも不得手なようで話し相手に飢えていた。
最近の流行事情を持ち出した折りの、母親の目の輝きを見逃さなかった。
デパートでの配送バイトが、こんなところで役立つとは思いも寄らぬことだった。

必然、彼の評価は上がった。
幸いにも、由香里の成績も上向き始めた。
由香里も、彼の歓心を惹こうと身を入れて頑張った。
今までの成績が惨憺(さんたん)たるものだったから、当然のことではあったが。

一抹の不安を抱いていた父親だったが、帰宅時に娘が玄関に出迎えての挨拶に驚いた。
そのことが彼に諭されてのことと知り、
「いい青年じゃないか。あいつに、礼を言わなくちゃなあ」と、上機嫌になっていた。
塾経営者の助言からのことだったが、彼にしても茂作の厳しい躾の賜物だった。

珍しく早く帰宅した折りに、娘の奮闘ぶりを目にして
「今夜はもう終わりにしなさい。先生と一緒に、外食しようじゃないか。」
と、声をかけた。
由香里は小躍りして喜んだが、
「申し訳有りません。今夜は、遠慮させてください。試験対策をしていますので。」
と、彼は辞退した。
「先生の、いけずう」と、頬を膨らませる由香里に対し、彼は目配せをして納得させた。
”試験休みのデートがあるだろう?”

今夜の彼は、早く牧子の元に行きたかった。
ここ一週間ほど牧子の帰りが遅く、逢えない日々が続いていた。
悶々とした夜を過ごしている彼は、今夜だけは早く切り上げたいのだ。


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