昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(十一)の一

2011-07-01 22:37:33 | 小説
“ゆっくりよ、
ゆっくり。
急いじゃだめ、
いいわね小夜子。
手は、左手は、
ちゃんと胸の前に置いてね。
ピンと伸ばすの、
肝心なことだから。
それから、
すり足すり足。
いいわ、いいわ。
上手くいってる。
ほら、
みんな見とれてるでしょ?
あたしに、
みんな見とれてる。
こんな大勢が、
あたしにひれ伏してるの。
見てよ、
マッケンジーを。
嬉しそうな顔して。
そうよ、
あたしは蝶になったの。
アゲハ蝶に変身したの。
もう田舎娘だなんて、
バカにさせないわ。
小娘だなんて、
言わせないわ。”
紫のスカーフを、
頭から首そして肩へと流す。
インドの民族衣装サリーを纏っての、
小夜子。
真一文字に結んだ口が、
ふっと緩んだ。
「菩薩さまだわ、
弥勒菩薩さまだわ!」
エレベーターで会った老婦人から、
ため息と共に洩れた。
その言葉がきっかけとなり、
一斉に拍手が沸き起こった。
正三も立見席で激しく手を叩き、
賞賛した。
“小夜子さん、
素敵です。
僕は、
ほんとに幸せ者です。
貴女とご一緒してきたのですから。”
会場に居る全ての人に、
今すぐ宣言したい思いに駆られる正三だった。


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