昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

狂い人の世界 [第一章:少年A](九)

2020-06-09 08:00:45 | 小説
 ここで少し、少年のことをお話ししておきましょうか。
小・中学時代の少年は、両親の過大な期待に応えるべく、必至に勉学に励みました。
塾通いは勿論のこと、たまの休日には叔父に当たる現役大学生の応援授業がありました。
携帯電話を持たされてはいますが、もっぱら母親とのライン専用です。
ゲームなどはもっての外で、遊びのあの字も知らぬが如くにでございます。
それが故に、成績もほとんどトップでベスト5から落ちた経験がありませんでした。

が、高校ではそうはいきませんでした。
中位の成績となり、中々上位に食い込めないのです。
落ち込む彼に対し、両親・塾の講師共々、慰めの言葉をかけます。
曰く、
“「体調不良のせいさ」
曰く、
「たまたまのことさ」と。
そして必ず付け加えられた言葉、
「次回、頑張れ!」。

新学期を迎え、父親が単身赴任をしました。
そして母親と二人だけの、食卓です。
「うざいんだよ、もう!」
突如、少年がキレたのです。

「大王様!閻魔大王様!」
 突然、部下が呼ぶ声がします。
慌てふためいたその声に、私は後ろを振り向きました。
真っ青な顔色の青鬼が、私に叫びます。
「た、大変でございます。
彼の国において、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開しております。
ひ、飛行機が、ビルに激突しております」

「大王様! こちらでも、でございます」
 顔を真っ赤にした赤鬼も、叫びます。
部下の元に急ぎ駆け付けた私は、遠メガネに飛びつきました。
私が管轄する地獄が、現世に出現したが如くでございました。
思わず、神の言われた『お灸』という言葉が、頭に浮かびました。

“神も、罪なことをされるものだ――”
“あれ程に慈悲の心を説かれる神が、このような仕打ちをされるとは――”
 正直な私の気持ちでございます。
暗澹たる心持ちになってしまいます。
ところがです。その後、神にお会いした折には、意外な言葉をお聞きしました。


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