洛外蓮台野において。
静まりかえっている境内は、煌々と輝くかがり火で昼日中のように明るく照らされていた。
そこに、本堂を背にして清十郎が陣取っていた。
当事者以外には秘密にしていたにも関わらず、また冷え込む夜間にも関わらず、そしてまた洛外だというのに十数人の見物人がいた。
門人たちが口々に「見世物ではないぞ」「帰れ帰れ」と叫んでいる。
「騒がしゅうて申し訳ございませぬ。どうやら、ムサシが漏らしたようで。
門人に取り囲まれるとでも思ったのでございましょう。
まさに下衆の勘ぐりというもので」
「いやいや、そうではあるまい。多数の門人だ。中には口の軽い門人もおるであろう。
しかし事を穏便に済ませようと思ったが、これではそうもいくまいて。
ムサシには悪いことをしたかもしれぬな」
鷹揚な気質の清十郎を知る師範代の梶田に不吉な思いが過ぎった。
「左様でごさいますな。なれど案外にも、ムサシが門人を打ちのめしたからと鼻高々に言いふらしたとも。
しかし清十郎さまと戦うことになろうとは…気の毒な者でございます」
「致し方あるまい。当方に失態があったのは事実のこと。
そのことについては謝らねば」
あくまで大人(たいじん)としての態度を見せつけようとする清十郎を見るに当たって、思わずもらした。
「相変わらずお優しいことで。
伝七郎さまのお耳に入ろうものなら、烈火の如くにお怒りでございましょう。
いっそ…」
危うく「お任せになられては」と言いかけて飲み込んだ。
「あ奴は、あ奴だ。剣では、あ奴が上であろう。
さぞかし、二男がゆえに冷や飯を食わされたと思っているであろう。
あの性格さえのお。どこぞの藩の剣術指南役になれぬかと思っているのだが、あの所行では…。
一体なにを考えておるのか」
空に浮かぶ月を見ながら〝明日には下弦になるのか‥‥〟と、これから始まる死闘のことが頭から消えてしまった。
静まりかえっている境内は、煌々と輝くかがり火で昼日中のように明るく照らされていた。
そこに、本堂を背にして清十郎が陣取っていた。
当事者以外には秘密にしていたにも関わらず、また冷え込む夜間にも関わらず、そしてまた洛外だというのに十数人の見物人がいた。
門人たちが口々に「見世物ではないぞ」「帰れ帰れ」と叫んでいる。
「騒がしゅうて申し訳ございませぬ。どうやら、ムサシが漏らしたようで。
門人に取り囲まれるとでも思ったのでございましょう。
まさに下衆の勘ぐりというもので」
「いやいや、そうではあるまい。多数の門人だ。中には口の軽い門人もおるであろう。
しかし事を穏便に済ませようと思ったが、これではそうもいくまいて。
ムサシには悪いことをしたかもしれぬな」
鷹揚な気質の清十郎を知る師範代の梶田に不吉な思いが過ぎった。
「左様でごさいますな。なれど案外にも、ムサシが門人を打ちのめしたからと鼻高々に言いふらしたとも。
しかし清十郎さまと戦うことになろうとは…気の毒な者でございます」
「致し方あるまい。当方に失態があったのは事実のこと。
そのことについては謝らねば」
あくまで大人(たいじん)としての態度を見せつけようとする清十郎を見るに当たって、思わずもらした。
「相変わらずお優しいことで。
伝七郎さまのお耳に入ろうものなら、烈火の如くにお怒りでございましょう。
いっそ…」
危うく「お任せになられては」と言いかけて飲み込んだ。
「あ奴は、あ奴だ。剣では、あ奴が上であろう。
さぞかし、二男がゆえに冷や飯を食わされたと思っているであろう。
あの性格さえのお。どこぞの藩の剣術指南役になれぬかと思っているのだが、あの所行では…。
一体なにを考えておるのか」
空に浮かぶ月を見ながら〝明日には下弦になるのか‥‥〟と、これから始まる死闘のことが頭から消えてしまった。
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