昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十一) 露天風呂

2013-11-21 21:02:16 | 小説
(五)

「ところで女将。露天風呂は、僕の貸切りみたいなものですね?」
「左様でございます、ごゆっくりお入りください」

「女将と一緒できたら、一生の思い出になると思うんだけれども。
どうにも男と言う者は仕方がない。綺麗な花を見ると、つい手にとってみたくなる」

女将の顔を窺いつつ、探りを入れてみた。

「まあまあ、嬉しくなることを仰られて。
あたくしも社長さまと、湯船で差しつ差さされつとまいりたいもので。

ご酒はお強いのでしょ? あたくし下戸なくせに、大好きでございまして。
酔いましたら、介抱してして頂けますでしょうか?」
色香たっぷりに、ぬいが科を作った。

「もちろんだよ、女将。とことん介抱させてもらいます。
しかし女将、そんなことを言いつつも、案外底なしのうわばみじゃないのかな? 
東北人が下戸だと言っても、とてものことに信じられないことだからね。
まあいい、それは今夜分かることだし」

「あらあら、社長さま。今日の今夜というわけにはまいりませんわ。
あたくしも一応は、女の端くれでございます。

物事には順序と言うものがございますわ。それに、心の準備も致しませんと。
ということで、次回のお泊り時にでも。その折を心待ちにしております」

やんわりと断る様は、実に堂にいったものだ。

「いや参った、うまく逃げられてしまった。
次回の宿泊時には、他の客が居るからとか何とか、そう言って逃げるわけだ。

そして次々回の泊りを期待させるわけだ。
女将、この手で何人の常連客をつかんでいるんだい」


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