(三)
「なあに、あの言い草は。失礼な男ね」
「雨宿りなら、軒先と相場が決まってるでしょ」
「そうよ。なんで、店の中に入るの?」
「見てよ、ソファ。それに、床も。水浸しじゃない?」
奥で囁き合う事務員たち。
声を潜めての小声であるのに、突然男が立ち上がって怒鳴りつけた。
「なんだ、なんだ! この店じゃ、雨宿りの一つもさせないのか。
困ってる人様に、この仕打ちかよ!」
今日は〆後の、月初めだ。どっと注文が殺到して、あいにく男たちは皆、出払っている。
普段は居るはずの五平やら竹田ですら、配達へと駆り出されていた。
一人居るには居るが、齢六十を過ぎた老人だ。
然も激しく振り出した雨のため、裏の倉庫内での作業に精を出している。
余ほどの大声でも、この雨音では聞こえる筈もない。
「どうしたの?」
二階から小夜子が声をかける。
手すりから体半分を乗り出して、階下の様子を覗き込む。
「おう! あんたが、社長かい?」
待ってましたとばかりに、男が怒鳴る。
「あんたんとこは、困ってる人間に対して、まるで情というものがないんだねえ!
世間様の評判どおりだぜ」
「なあに、あの言い草は。失礼な男ね」
「雨宿りなら、軒先と相場が決まってるでしょ」
「そうよ。なんで、店の中に入るの?」
「見てよ、ソファ。それに、床も。水浸しじゃない?」
奥で囁き合う事務員たち。
声を潜めての小声であるのに、突然男が立ち上がって怒鳴りつけた。
「なんだ、なんだ! この店じゃ、雨宿りの一つもさせないのか。
困ってる人様に、この仕打ちかよ!」
今日は〆後の、月初めだ。どっと注文が殺到して、あいにく男たちは皆、出払っている。
普段は居るはずの五平やら竹田ですら、配達へと駆り出されていた。
一人居るには居るが、齢六十を過ぎた老人だ。
然も激しく振り出した雨のため、裏の倉庫内での作業に精を出している。
余ほどの大声でも、この雨音では聞こえる筈もない。
「どうしたの?」
二階から小夜子が声をかける。
手すりから体半分を乗り出して、階下の様子を覗き込む。
「おう! あんたが、社長かい?」
待ってましたとばかりに、男が怒鳴る。
「あんたんとこは、困ってる人間に対して、まるで情というものがないんだねえ!
世間様の評判どおりだぜ」
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