昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十七) キラキラ輝き始めた女侍たち

2014-05-17 13:07:50 | 小説
(二)

女城主である小夜子を先頭に、キラキラ輝き始めた女侍たち。

「映画スターかと思えるほどの美人が居るって話だ」
とくすぶっていた噂が、ある事をきっかけに、一気に広まった。

どしゃ降りとなったある日の午後だ。

「ごめんよ、雨宿りをさせてもらうぜ」
と、四十代半ばの男が、びしょ濡れ状態で転がり込んできた。

そしてその男、こともあろうに、お客用のソファにどっかりと腰をおろした。
ソファは水に濡れ、床もまた水浸しになっていく。

雨宿りと言うならば、少しは遠慮して軒先に立つぐらいが当たり前のこと。

取り引き先ならばまだ分からぬでもないが、その男、誰も見たことがない。
しかも悠然と煙草を取り出し、灰皿を要求してきた。

「姉ちゃん。煙草を出したんだ、灰皿を用意するのが当たり前だろうが。
気がきかねえ店だぜ、まったく」

「あのお…。失礼ですが、どちら様でしょうか?」

恐る恐る尋ねる。取り引き先の人間なのか、あるいはこれから取り引きをと考えている業者なのか。
困惑の中、真意を探った。

しかし男は、悪びれる風もなく声を荒げた。

「初めに言ったろうが! 雨宿りだよ、雨宿り!」

深く吸い込んだ煙を、店中に向かって吐き出した。
明らかに何らかの意図を持ってのことと、皆が考えた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿