昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十八)の七と八

2012-01-29 14:14:40 | 小説
(七)

「いつまでも夜の仕事を続けるのは、どうだろうねぇ。
聞くところによると、学校では居眠りが多いと言うじゃないか。
そもそも、女如きに何が出来ると言うのかね。
婦女子は、家庭に入るのが一番だ。
どうかね、故郷に帰ってどこぞに嫁いでは。」

「そうですよ、小夜子さん。
女はややを生んで、家庭を守るものですよ。」
ソファに並んで座る二人から、辛辣な言葉を浴びせられた。
小夜子は入り口に立ち竦んだまま、うな垂れていた。

将来の見通しを持っている訳でもない小夜子には、耳の痛い言葉だった。
確かに毎日の睡眠時間が不足はしている。
週の後半ともなるときつくなる。
猛烈な睡魔に襲われることが、間々あった。

「ご心配をおかけして、申し訳ありません。
もう少しの間、お世話にならせてください。
出来るだけ早く、どこぞにお部屋を借りますので。」

「いや、迷惑だと言ってるのじゃないんだ。
第一、若い身空で一人暮らしなど、もっての外だ。」
「そうですよ、小夜子さん。
そんなことは、させられません。
世間体と言うものがありますからね。」

思いもかけぬ小夜子の返事に、二人は慌てた。
しかし小夜子は、
「いえ、もう当てがありますから。
この月内には、移り住めると思います。」と、勝ち誇ったように言い放った。


(八)

実のところは、当てがある訳ではなかった。
加藤家での息詰まる生活に、耐えられなくなっていた。
「当てがあるとは・・どういうことかね?」
「はいっ。お店のお客様のご紹介で・・」

「み、店の客とは、どういうことだ!
、その、なんだ、ふしだらな関係・・」
気色ばむ加藤に対し、小夜子は言葉を遮って叫んだ。
「ち、違います!
あの方は、そんなお人じゃありません!
足長おじさんです、私にとって。」

武蔵は相変わらず、足繁く小夜子の元に通った。
あの夜以来、何かとプレゼントを持ってくるようになり、以前にも増して軽口を叩くようになった。
小夜子もまた、武蔵に対する警戒心が取れた。
何より、正三という婚約者の存在を認めてくれている。
“あたしさえしっかりしてれば、大丈夫!”

そんな思いが、小夜子の中にはある。
そして久しく味わえずにいた女王然とした態度を喜ぶ、武蔵がいた。
“少しサービスしてあげると、感激するのよね。”
少しずつホステス達に感化され始めたことに、まるで気付かぬ小夜子だ。

「小夜子、今夜はバッグを見つけてきたぞ。
どうだ、最高級の鰐皮製だ。
小夜子には少し早いかもしれんが、掘り出し物があったんでな。
で、どうだ?決心は、付いたか?
愛人になってくれたら、もっと凄いプレゼントをしてやるぞ。」


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