三
穏やかな波に反射する太陽光を眩しく感じながら、武蔵は光子の横顔をも眩しく感じた。
“いい女だ・・”
久しぶりに、心が騒ぐ武蔵だった。
あの梅子以来の、ことだ。
もっとも梅子との間には、男女関係はない。
色気云々ではなく、人間として器の大きさを感じてのことだ。
しかし女将に対しては、女としての魅力も感じる。
「女にだらしなく見えますか?」
思わず、口にしてしまった。武蔵の常套句だ。
「俺は女にだらしないし、一目ぼれが激しい。
しかし女将、いや光子さんだけは別だ。
心底、惚れました。」
「まぁ、ホントに光栄ですわ。
わたくしも、武蔵さんに惚れこんでおります。
旅館の女将でなければ、東京まで押し掛けて行きたいほどですわ。」
さすがに女将である、サラリと受け流した。
これでは武蔵としても、矛を収めざるを得ない。
「まいった、まいったよ、女将。
口説き落とせなかった女は、おか・・光子さん、あんただけです。」
快活に笑う武蔵に、女将は拗ねた表情を見せつつ
「あらあら、もうお降りになるんですか?
もうひと押しあれば、わたくしの方がよろめきましたのに。」と、武蔵の腕を軽く抓った。
四
「光子さん。こんなことを聞いていいのかどうか、正直分からんのですが。」
「まぁ、恐いこと。どんなことでしょう?」
武蔵にしては珍しく、言葉が饒舌に出てこない。
「うん・・別に聞くこともないし、聞かない方がいいのかも、しれんし・・」
「武蔵さまにしては、珍しく弱気ですね?
そんなことじゃ、陥ちるものも陥ちませんことよ。」
にこやかに微笑みながら、光子が急かす。
「答えたくなかったら、答えなくてもいいですから。
いやいかん。もう、弱気の虫が出た。
深い意味はないんです、ただ聞きたいだけですから。」
「はいはい、どんなことでしょう?
あたくしも、どんなことを聞かれるのか、楽しみになってきました。」
穏やかな波に反射する太陽光を眩しく感じながら、武蔵は光子の横顔をも眩しく感じた。
“いい女だ・・”
久しぶりに、心が騒ぐ武蔵だった。
あの梅子以来の、ことだ。
もっとも梅子との間には、男女関係はない。
色気云々ではなく、人間として器の大きさを感じてのことだ。
しかし女将に対しては、女としての魅力も感じる。
「女にだらしなく見えますか?」
思わず、口にしてしまった。武蔵の常套句だ。
「俺は女にだらしないし、一目ぼれが激しい。
しかし女将、いや光子さんだけは別だ。
心底、惚れました。」
「まぁ、ホントに光栄ですわ。
わたくしも、武蔵さんに惚れこんでおります。
旅館の女将でなければ、東京まで押し掛けて行きたいほどですわ。」
さすがに女将である、サラリと受け流した。
これでは武蔵としても、矛を収めざるを得ない。
「まいった、まいったよ、女将。
口説き落とせなかった女は、おか・・光子さん、あんただけです。」
快活に笑う武蔵に、女将は拗ねた表情を見せつつ
「あらあら、もうお降りになるんですか?
もうひと押しあれば、わたくしの方がよろめきましたのに。」と、武蔵の腕を軽く抓った。
四
「光子さん。こんなことを聞いていいのかどうか、正直分からんのですが。」
「まぁ、恐いこと。どんなことでしょう?」
武蔵にしては珍しく、言葉が饒舌に出てこない。
「うん・・別に聞くこともないし、聞かない方がいいのかも、しれんし・・」
「武蔵さまにしては、珍しく弱気ですね?
そんなことじゃ、陥ちるものも陥ちませんことよ。」
にこやかに微笑みながら、光子が急かす。
「答えたくなかったら、答えなくてもいいですから。
いやいかん。もう、弱気の虫が出た。
深い意味はないんです、ただ聞きたいだけですから。」
「はいはい、どんなことでしょう?
あたくしも、どんなことを聞かれるのか、楽しみになってきました。」
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