昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十六)の九と十

2012-01-01 17:15:30 | 小説


「珠子、と言うんだ。この間入った娘でね、まだ未通娘だよ。
社長はグラマーな娘が好きだろう?」
武蔵がホールに立つと同時に、音楽がマンボに変わった。
戸惑う武蔵を尻目に、珠子がリズム良く踊り始めた。
少しの間立ち竦んでいた武蔵だったが、見様見真似で踊りだした。
そのぎこちない動きに、其処彼処から笑いが起きた。

あっという間に手持ち無沙汰の女給達がホールになだれ込み、さながらダンス大会の様相を見せた。そんな中、客席ボックスの間で小刻みにリズムを取っている娘が居た。タバコの入った籠を大事そうに抱えているその娘に、武蔵の視線はくぎ付けになった。
未だ少女の面影を宿しているその娘は、武蔵の好みとは無縁だった。スレンダーな体付きで、骨張って感じられた。しかし涼しげな目が、武蔵を捉えた。




汗だくになりながら戻ってきた武蔵に、五平が声をかけてきた。
「どうです、社長。いい娘でしょ?あたしが話してた娘です。」
「うん・・どの娘のことだ?」
武蔵は、とぼけて聞き返した。
「ほら、あのタバコ売りですょ。今、呼びますから。」と、手招きした。
「ありがとうございます、おタバコですね。」
手持ち無沙汰にしていた、タバコ売りの娘がやってきた。五平は、うんうんと頷きながら、
「この間から話してる、お方だ。」と、武蔵の傍に立たせた。
「名前は、何て言うの?」
「はい、小夜子と言います。」


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