昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (三)意気揚々と

2024-10-05 08:00:18 | 物語り

意気揚々とかえりついたわたしを待ち受けていたのは、
「遅かったわねえ」と、不機嫌な顔を見せるおとなりさんだった。
「お昼過ぎって聞いてたけど、いま、何時かしら? うちの時計では、もう三時を回っているんだけど」
「ああ、失礼しました。ありがたいことに、就職が決まりまして。
会社内を見学させてもらったら、遅くなってしまいました。お待たせしてしまいました」

“なんで謝らなきゃならんのだ”
と思いつつも、へこへこと何度も頭を下げつづけてしまった。
そんなわたしとお隣さんの声に気がついたのか、ぞろぞろと集まってきた。
まったく、ひまな御仁ばかりのようだ。
結局のところ、二時間ほど質問攻めにあった。 

六年前に離婚してバツイチであること、子どもたちとはたまに手紙のやり取りはあるけれども、今はやりのメール交換はしていないと話した。
そして三年ほど前に心臓を患い、今年の春からペースメーカーのお世話になっていることも、話してしまった。

「手紙だなんて、いまどき珍しいわねえ」
「あたしなんか、孫がメールをくれるって言うから、携帯電話を買わされちゃったわよ。
それも、孫の分まで」

「あなたもなの? あたしもよ。
スマートホンとか言うのを、買わされちゃったわ。
同じ会社だとお安くなるから、孫も買い換えたいって。
二台よ、二台。ほんと、ちゃっかりしてるわ」
「だけどさ、あれ、良いわね。
ジー、ジー何とかって言う、迷子になってもさ、位置が分かるんですって。
『認知症になっても、あたしが見つけてあげるから…』なんて、孫が言ってくれてさ」

すっかりと、孫の自慢話になってしまった。
「山本さんは、どうなの? お孫さん、いらっしゃるの?」
「いえ、わたしのところはまだでして。
わたしも晩婚でしたが、子どもたちも晩婚になりそうです」
「あらそうなの、それは淋しいわね」



最新の画像もっと見る

コメントを投稿