ごんすけ七歳の折だった。
頭から血を流して戻ったごんすけが、ごんたに詰め寄った。
「おら、もうがまんできねえ。あいつらにしかえしする」
聞き流そうとしたごんただったが、囲炉裏の灯りで浮かび上がるごんすけのぎらぎらとした目を見て
「しんぼうだ、しんぼうしろ。
そんなことをしたらこのむらにおられんようになる。
なあに、そのうちにあいつらもやめるさ。
おとうからもいってやる。
それより、あすはりょうにでねえか。
うみでおもいっきりさけべば、みいんなわすれちまうぞ」
と、慰めにならないと知りつつ、声をかけた。
水瓶からすくい上げた水を一気に飲み干したあと、ごんすけが吠えた。
「こんやのめしはなんだ。
さかなか? なっぱじるか? はらいっぱいくってみてえもんだ」。
囲炉裏端で網の修理に精を出すごんたに噛みついた。
「ぜいたくいうでねえ! まいにちたべられるだけでもありがてえとおもえ」。
ごんた自身が満腹感を知らずに生きてきた。
当たり前のことと思っていた。
翌日、ごんすけの姿が消えた。
そして浜の岩陰で泣き叫ぶ子どもたちが見つかった。
「ぶっといまるたでなぐったそうじゃねえか。
むかしのおんをわすれるなんぞ、ひとじゃねえ!」
ごんたを取り囲んだ村人から口々にののしられて、とうとうごんたが切れた。
「おおぜいでいじめるのはかまわんのか!
なんばんじんのこじゃといしをなげつけるのはかまわんのか!
おん? おんじゃと。
よういうてくれたの。
ちちのかわりにさかなをよこせいうたんはだれじゃ。
あめのひどいひにもりょうをさせたのはだれじゃ」
「いいか。とにかく、ごんすけをつれてこい。
ふなぬしさんにきいてもらうから」
捨て台詞を残して村人が去ると、「つれてなんぞいけるか。ごんすけはもうもどってこんわ」と、土間に下りて水瓶から水をひしゃくですくった。
その水瓶の水面に映ったごんたの目から大粒の涙がしたたり落ちた。
「ゆるしてくれよ。
おとうがいくじなしなばっかりに、おまえにはつらいめばっかりあわせちまった」
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