昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (二十七)はっきり申しましょう。

2025-02-05 08:00:43 | 物語り

 はっきり申しましょう。家柄云々といったことでした。
わたくしではございませんよ。正夫ですよ、正夫です。
なにせ尋常小学校すら出ておりませんから。
それにあの容貌でございますし。ご親戚に対してもねえ。
おわかりでございましょう? 縁を切ってくれ、そのように言われたようでございます。

 いえ、妙子はなにも申しません。
健夫さんが教えてくださいました。
「恥ずかしい両親です。
未だに戦前の因習にとらわれて、家格がちがうだの、家柄がひどすぎるだのと。
ぼくが縁を切ります」。
そこまでおっしゃっていただけたのですが。

そう言われましても、妙子の気持ちを考えますと……。
まあわたくしとしましても、妙子はどこに出しても恥ずかしくない娘です。
ただ、親は選ぶことができませんし。
 申しわけありません、わたくしが間違っておりました。
いくら戦後のあの時代だったとしても……。
やはりのことに毛嫌いをしている相手の元に、というのは無理がありました。

 親戚ですか? 長野の。
そのおりに母方の実家にでも身を寄せればと、いまでは思わぬわけでもありません。
でもどうでしよう。
肩身のせまい思いを、いえいえ、妙子ではございません。
わたくしが、ですわ。
おそらくはどこぞの農家に嫁がされたことでしょう。

 東京女子師範学校に在学していました、このわたくしがですよ。
なにが哀しくて農家に嫁がねばならぬのですか。
当時は気づかぬこととはいえ、身重でした。
父親なしの娘を産むことになるのです。
なにを言われるか、どんな仕打ちを受けるやら。
いえ、おそらくは妙子が生を受けることはなかったと思います。
わたくしと三郎さんとの、愛の結晶が、この世に生まれ出ずることなく……。
ありえませんわ、そんなことは。
そんなことならば、まだ正夫の元に逃げ込んだほうが、よほどにましですわ。

 それに……。しばらくすれば、三郎さまも出てこられるでしょうし。
そうなれば三郎さまのご実家に戻られて、なにせ跡継ぎでございますからね。
正夫に悪いと思わないのか、ですって! 
わたくしのそのおりの気持ち、どなたにもお分かりいただけませんわよ。
使用人だったのですよ、それにあの不細工さ。
本来なら嫁などもらえるはずもない。
縁談? そんな話がありましたの? 
それは結構なことで。ならばさっさと迎え入れればよかったのに。
そうしましたら、わたくしも長野の農家の嫁として……。 

 



最新の画像もっと見る

コメントを投稿