昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十七) 百貨店に楯突いた男

2014-05-15 22:17:05 | 小説
(一)

「百貨店に楯突いた男」として、富士商会の名と共に御手洗武蔵の名が全国に知れ渡った。
賞賛の声もありはしたが、売名行為と受け取られた面が多々あった。

出かけた先々でのコソコソ話が、武蔵の勘に触ることも多かった。

「俺の目を見て、言えねえのか!」と、怒鳴りつけたこともある。
「余所者に冷たい所だな!」と、吐き捨てたこともある。

組合設立時の折りに、山勘商店に田口商事、そして内海商店の三人が富士商会に集まった。
その時たまたま、小夜子が居合わせた。

以来足繁く通う三人のことが「富士商会と裏取引を…」という噂が広まった。
慌てて「実は、とんでも別嬪(べっぴん)さんが…」と言い訳をする羽目になった。

そんなことから「成り上がり者が!」と、半ば公然と軽蔑の眼差しを向けていた老舗の店主たちが、
こぞって富士商会へと足を運び始めた。

取り引き云々ではなく、小夜子の品定めではあったが。
といって手ぶらで帰るわけにもいかず、何某かの商品を手にして帰っていった。
そしてその内の大半は以後も取り引きが続いた。


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